研究実績の概要 |
新たな糖尿病性腎臓病治療標的としてケトン体に注目し,糖尿病に伴う動脈硬化に起因した腎機能低下に対して,ケトン体が腎保護効果を有するという仮説を立て検証を行うこととした。まず,野生型マウスおよび高脂肪食を加えた動脈硬化モデルであるApoE欠損マウス(HFD-ApoE-KOマウス)の近位尿細管細胞を単離し,エネルギー代謝を検証した。野生型マウスでは脂肪酸酸化が亢進していたが,HFD-ApoEマウスでは脂肪酸酸化が低下し,ケトン体代謝が亢進していることが確認された。糖尿病における動脈硬化病変では,近位尿細管のATP産生源が脂肪酸からケトン体へシフトすることが確認された。次に,HFD-ApoE-KOマウスに対し,ケトン体前駆物質1,3-BDおよびSGLT2阻害薬投与での腎保護効果を検証したところ,1,3-BD・SGLT2阻害薬は,血中ケトン体濃度上昇を伴い,腎機能低下,腎組織学的増悪,腎ATP含量低下を改善させた。ケトン体合成律速酵素Hmgcs2とApoEのダブルノックアウトマウスでは,SGLT2阻害薬による腎保護効果は認められなかった。またHFD-ApoE-KOマウス腎で,糖尿病状態での低酸素に伴う尿細管障害に関与する蛋白質キナーゼ複合体mTORC1の活性亢進が認められたが,1,3-BD投与により有意に抑制された。次に,mTORC1活性に対する抑制蛋白であるTSC1遺伝子の近位尿細管特異的欠損マウスを作製し,近位尿細管細胞でmTORC1が恒常的に活性化する遺伝子改変マウスを作製したところ,同マウスにおいて有意な腎肥大と腎障害を認めたが,1,3-BD治療によりこれら腎病変の改善が認められた。本研究により,ケトン体による腎へのエネルギー供給およびmTOC1抑制が,糖尿病に伴う動脈硬化に起因した腎機能低下に対する治療戦略となる可能性が示された。
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