研究課題
慢性腎臓病は日本国民の約8人に一人が罹患する国民病でもある。そのような腎臓病の進展因子は蛋白尿が主であり、その腎臓病への新たな治療ストラテジーとして、semaphorin3aを介した腎機能重症化抑制を目指した病態機序の解明を行った。我々は臨床研究において、糸球体細胞形態的障害が少ない微小変化型ネフローゼ症候群とsemaphorin3aとの関係について報告した。今回の研究では、基礎的に糸球体上皮細胞障害とsemaphorin3aとの病態機序解明から新たな治療法の開発を行った。昨年度は主に糸球体障害、特に上皮細胞障害を主に解析を行った。In Vivo実験として、糸球体上皮細胞モデルとしてアドリアマイシン誘発腎症モデルを作製し、糸球体障害を惹起し、それらに対し、semaphorinの関連を解析した。また、semaphorin阻害剤を投与した群も作製し、semaphorin阻害による糸球体上皮細胞保護効果も確認した。また、In Vitro実験では、培養糸球体上皮細胞を用いて、In Vivoと同様にアドリアマイシン刺激による上皮細胞障害を作製し、semaphorin阻害剤による保護効果も確認した。Semaphorinは上皮細胞において、TGF-β産生を惹起し、糸球体障害を惹起することが示唆され、semaphorin阻害剤により、TGF-βの産生は抑制され、上皮細胞障害を抑制されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、主にsemaphorinと腎機能障害についての解明を行う。現在までの研究では、糸球体障害、特に糸球体上皮細胞障害について検討を行った。本研究の主な内容は二点あり、一つはIn Vitroでの糸球体上皮細胞の刺激による機序解明であり、二つ目には、In Vivoで糸球体上皮細胞障害モデルの糸球体の特化した解析を行う。Puromycin導入にてMCNSモデルの作製を想定したが、アドリアマイシン投与モデルの方が安定した糸球体障害を作製できたため、モデルの変更を行った。アドリアマイシン投与モデルでは有意なアルブミン尿の排出が確認され、糸球体障害においても病理学的・遺伝子発現においてもアドリアマイシン投与モデルにおいて、semaphorin、その受容体であるNRP-1の発現が亢進していた。In Vitroでは、培養上皮細胞を用いて検討を行ったが、アドリアマイン投与、またsemaphorin投与において、上皮細胞のアポトーシスの亢進が認められ、semaphorin阻害剤にてそれらのアポトーシスが抑制された。このことから、semaphorin抑制はアドリアマイシン惹起ネフローゼモデル及び培養上皮細胞に保護的に働くことが示唆された。
現在まで、In Vitro及びIn Vivoモデルのsemaphorinと腎障害、特に糸球体障害との関連があることが示唆された。しかし、その機序には様々な要因が絡んであり、特に薬剤性モデルの為、ヒトでの疾患との相違も想定された。そのため現在、cre-loxpシステムを用いた糸球体上皮細胞特異的障害モデルの作製を試みており、より詳細な上皮細胞障害とsemaphorinとの関係を解明していく。また、糸球体のみならず、尿細管障害にも関与している可能性も示唆されるデータもでてきており、糸球体障害のみならず、尿細管障害の解明も行っていく。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Transplantation.
巻: 103 ページ: 344-352
10.1097/TP.0000000000002555.
Int J Mol Sci.
巻: 6 ページ: 3489-3489
10.3390/ijms19113489.