本研究の目的は、ヒトiPS細胞からエリスロポエチン産生細胞を分化誘導し、これを生体に導入することにより、エリスロポエチンの生理的な補充を行うことである。さらにはエリスロポエチン産生機構を解明することにより、新規腎性貧血治療を開発することにある。2020年度は、マウスiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞を自家移植することを計画していた。はじめに、血液検体からiPS細胞を樹立する系を確立した。ヒト血液から単核球を分離し、プラスミドを導入することによりiPS細胞を樹立した。樹立されたiPS細胞はエリスロポエチン産生細胞に分化誘導できることを確認した。次に、ヒトiPS細胞を用いる分化誘導法を改良し、マウスiPS細胞からエリスロポエチン産生細胞に分化誘導できることを確認した。これらの技術を用い、マウスからiPS細胞を樹立し、エリスロポエチン産生細胞に分化誘導し、自家移植を行う実験を進めている。一方で、作製したエリスロポエチン産生細胞の分離に役立つ因子としてCD140bとCD73に着目し、これらが有用な細胞表面マーカーであることを報告した。臨床応用に向け、細胞表面マーカーを用いた産生細胞の選択は非常に重要であると考えられた。さらには、分化誘導法の改良として、レチノイン酸がエリスロポエチン産生細胞の誘導効率を上げることも報告した。これら本研究で得られた成果は、腎性貧血治療に対する生理的な内分泌補充療法を可能とする。このことは医療技術の向上に加え、新規細胞治療法の開発による本邦の医薬産業界の活性化をもたらすものであると考えている。
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