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2018 年度 実施状況報告書

単糖代謝阻害剤を標的とした嚢胞性腎疾患群の病態機序解明と薬効の検証

研究課題

研究課題/領域番号 18K08257
研究機関藤田医科大学

研究代表者

中嶋 和紀  藤田医科大学, 研究支援推進本部, 講師 (10442998)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワードグルコシルセラミド / O-GlcNAc化 / 嚢胞性腎疾患 / グルコース代謝
研究実績の概要

本研究では「糖鎖修飾」に着目して、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の病態機序を明らかにする。近年のゲノム研究からADPKD において糖鎖合成酵素や単糖代謝酵素の変異が報告され、糖鎖の病態への関与が注目されているが、その機序は未だ不明である。本研究では単糖代謝により生み出される様々な糖鎖分子が連動して細胞増殖を調節するという作業仮説に基づく。特に①糖脂質代謝と②細胞質O-グルコシル化に焦点をあてて、単糖代謝による嚢胞性腎疾患の細胞内シグナル調節機構を明らかにする。本年度は2つのアプローチを並行して進めた。
①糖脂質代謝阻害剤(Genz123346)はこれまで糖脂質への影響しか調べられてこなかったが(Natoli, 2010)、共同研究者の石橋らは糖脂質代謝がグルコース代謝とクロスリンクしている可能性を提唱した(石橋ら,JBC,2015)。本年度はその薬効機序を明らかにした。各薬剤を嚢胞腎患者由来遠位尿細管細胞株(W9-12)に添加し、表現型を解析した。結果、Genz123346はグルコース代謝全般を著しく抑制、AMP活性化プロテインキナーゼのリン酸化を亢進した。また糖脂質合成酵素のノックアウト細胞を樹立し、糖脂質が直接的に関与するかどうかを検証した。予想に反して、Genz123346の薬効に糖脂質は関係しておらず、直接的にグルコース代謝を阻害していることが明らかになった。本結果は米国腎臓学会やISN FRONTIERS 2018にて報告、後者ではポスター発表 Top 10を受賞した。
②細胞質O-グルコシル化はリン酸化修飾と拮抗する翻訳後修飾である。本年度は、共同研究者の長尾らが進めているリン酸化プロテオミクスを共同研究者として推進した。一方、O-GlcNAc化タンパク質の解析に必要なクリックケミストリーによる標識法や阻害剤実験を実施、次年度以降の礎を構築した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究は単糖代謝を介した嚢胞性腎疾患の病態機序解明を目指し、1)糖脂質代謝を介した病態悪性化機構、2)O-GlcNAc化の意義解明、3)マンノースアナログの合成と検証、4)トルバプタンとの薬剤併用法の検討を計画している。平成30年度は予定通り1)糖脂質代謝阻害剤Genz123346の薬効機序を解析、2)に必要な基礎検討を完了した。
1)ではGenz123346の薬効機序を明らかにするため、メタボローム解析、ATP量やミトコンドリア機能を検討した。またグルコシルセラミド合成酵素(UGCG)をノックアウトした細胞を樹立、糖脂質の寄与を検討し、本薬剤が糖脂質非依存的に細胞増殖を抑えることが示唆された。大出らの報告に基づいて考察すると(Exp Cell Res. 2017)、今回認められた現象はGenz123346が直接的にmTORを阻害していると考えられた。
2)では嚢胞腎患者遠位尿細管細胞株やネフロン勞モデルマウスの腎臓から、リン酸化タンパク質を解析した。リン酸化タンパク質の同定数が少なかったことから、新たな細胞内情報伝達経路の発見には至っていない。一方、O-GlcNAc化タンパク質は、O-GlcNAc抗体(CTD110.6)によるウエスタンブロットやO-GlcNAc Enzymatic labeling technologyによる標識法を構築、解析系の構築が完了した。また予備的な結果として、O-GlcNAc化タンパク質の発現量は嚢胞腎で増加すること、さらに尿中に分泌されるO-GlcNAc化タンパク質の存在可能性について興味深い知見が得られつつある。
3)と4)は既に6-アジドマンノースなどの候補化合物を化学合成して検討を開始している。

今後の研究の推進方策

今後は2)O-GlcNAc化の解析を継続する。また3)新たな単糖代謝阻害剤の合成と検証、4)トルバプタンとの併用療法を検討する。
2)のO-GlcNAcタンパク質のプロテオミクスは、最高精度の解析能力を持つOrbitrap Fusion ETD (Thermo Fisher Scientific)により行うため、数百個の候補タンパク質が見つかってくることが予想される。この中から、特定のタンパク質の特定の修飾サイトを介した制御機構を証明することは難しい。それゆえ現在見出しつつある稀な尿中に分泌されるO-GlcNAc化タンパク質に焦点を当て、嚢胞腎の早期診断バイオマーカーとしての評価を優先する。嚢胞腎の早期において特定のO-GlcNAc化タンパク質が変化することが証明できれば臨床的に意義はあると考えられる。
3)はマンノースに着目して研究を進める。なぜならマンノースは抗腫瘍効果を有し、抗がん剤の化学療法の効果を高めることが最近報告されている (Gonzalez et el. Nature,2018)。マンノース含有食品として、多糖ポリマーであるマンナンを含むコンニャクやアロエなどが挙げられる。それゆえマンノース機能性食品を素材とした食事療法も検討する。以上のように単糖代謝阻害剤やマンノース関連化合物の中から、臨床に早く還元できそうな候補化合物を選択する。将来的には、低用量メトホルミン療法、低用量2-DG療法などを参考にして、トルバプタンと併用するADPKDの補助療法を提唱したい。将来的には本学の臨床研究で得た「段階的トルバプタン導入法」を組み合わせることも想定している。

次年度使用額が生じた理由

計画していた糖脂質合成酵素(Genz123346)の薬効機序解析が、予想に反する結果が得られたため、その結果を早々にまとめただけで国際会議に報告した。また計画の代替案として計画2のO-GlcNAc化タンパク質の解析に労力をさいた。後者の研究は本学の競争的資金 若手研究助成金でまかなうことができたため研究費を節約することができた。
申請者はまた平成31年度4月から藤田医科大学共同利用研究設備サポートセンターに部署を異動してタンパク質解析を本務にすることになった。その初期セットアップ費用として、可能なかぎり予算を残したことも繰り越した理由の一つである。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2018

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] Mass spectrometry-based approach for development of biomarkers in IgA nephropathy: a pilot trial2018

    • 著者名/発表者名
      Kondo A, Takahashi K, Yamaguchi H, Yoshida Y, Mizuno T, Nakajima K, Hayashi H, Koide S, Inaguma D, Hasegawa M, Hiki Y, Yuzawa Y
    • 雑誌名

      Fujita Medical Journal

      巻: 4 ページ: 36-41

    • 査読あり
  • [学会発表] UDP-マンノースの検出と解析、組織分布について2018

    • 著者名/発表者名
      中嶋和紀、木塚康彦、山口芳樹、平林義雄、高橋和男、湯澤由紀、谷口直之
    • 学会等名
      第37回日本糖質学会年会
  • [学会発表] 糖ヌクレオチド代謝に着目したメタボローム解析技術の構築―腎疾患の代謝メカニズム解析への応用―2018

    • 著者名/発表者名
      中嶋和紀
    • 学会等名
      第91回日本生化学大会
    • 招待講演
  • [学会発表] DKDの新規バイオマーカー開発2018

    • 著者名/発表者名
      中嶋和紀
    • 学会等名
      第48回日本腎臓学会西部学術総会
    • 招待講演
  • [学会発表] Lipidomics and metabolomics reveal metabolic crosstalk between elevated glycosphingolipids and glucose metabolisms in polycystic kidney progression2018

    • 著者名/発表者名
      Kazuki Nakajima, Kazuo Takahashi, Masanori Kugita, Shizuko Nagao, and Yukio Yuzawa.
    • 学会等名
      International Society of Nephrology
    • 国際学会

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公開日: 2019-12-27  

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