背景と意義:本研究の目的は、ミトコンドリア分裂因子の機能欠損が、紫外線皮膚障害や発癌にどのような影響を与えるのかを解明することである。これまで、ミトコンドリア機能の欠損と表皮障害や角化異常などは報告されていない。本研究の意義として、将来的な紫外線や放射線への細胞防御機構の解明や、治療への応用につながる可能性がある。方法:本研究ではミトコンドリアの分裂およびアポトーシスに関連する分子の、機能欠損マウスを用いて、その紫外線障害に対する影響を検討している。結果:ミトコンドリア分裂および細胞死関連分子の表皮特異的欠損マウスを作成した。K14-Creマウスを用いた表皮特異的分裂因子ノックアウトは、胎生致死などを示さず、出生した。メンデルの法則にしたがって出生しており、また胎児期・出生後の皮膚障害は認められず、ミトコンドリアの分裂異常が細胞分裂に直接影響をあたえるかどうかについては明らかではなかった。電子顕微鏡によるミトコンドリア形態の観察では、ミトコンドリアの一部変形を認めたが、基本的には正常であると考えられた。また、ノックアウトマウス皮膚は、紫外線による細胞死誘導は正常であった(TUNEL染色による評価)。さらに、週に2度のUVB照射を40週にわたって行う長期紫外線照射によって、皮膚がん発生への影響を検討したところ、腫瘍の形成能が亢進していることが分かった。結論:ミトコンドリア分裂因子Drp1欠損は表皮の発生・分化への影響は認められず、紫外線発癌を促進する可能性が示唆された。
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