外胚葉形成不全症の疾患原因遺伝子は数多く同定されたが、原因遺伝子の機能、遺伝子間の機能的関連性や変異が発現・機能に及ぼす影響については未解明な部分が多い。本研究では、低汗性外胚葉形成不全症とその類縁疾患を主な対象とし、それらの原因遺伝子がコードする蛋白についてさまざまな発現・機能解析をin vitroレベルで施行することで上記の謎をできる限り明らかにすることを目的とする。令和2年度は、劣性遺伝形式を示す4種類のEDAR遺伝子変異について詳細な発現・機能解析を行った結果、いずれの変異も機能喪失型だが、機能喪失の程度や細胞内での発現パターンに違いがあることがわかった。過去の文献に報告されていた臨床所見を検討したところ、変異の種類と重症度との間に相関関係があることが示唆された。次に、4種類のEDARADD遺伝子変異(3種類は優性で1種類は劣性遺伝)について発現・機能解析を施行した結果、優性遺伝型の変異型EDARADDは、野生型EDARADDがEDARと結合することを阻害することでdominant-negative効果を発揮することを明らかにした。一方、劣性遺伝型のEDARADDは単にその機能を喪失する特徴を有することも示した。最後に、低汗性外胚葉形成不全症に類似した臨床所見を呈するOdonto-Onycho-Dermal Dysplasiaの原因遺伝子であるWNT10Aについて、過去に報告された3種類の変異が発現・機能に及ぼす影響を検討した。その結果、いずれの変異型WNT10Aも下流のbeta-cateninの活性化能を著しく低下させる機能喪失型であることがわかった。しかしながら、変異型WNT10Aの細胞外への分泌能および受容体との結合能は野生型と同様であり、どのような機序で機能を喪失するかについての具体的な機序は不明である。
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