研究課題
悪性黒色腫(メラノーマ)は免疫原性を持つ一方、その進展過程で特異な免疫逃避能とともに様々な治療に対する抵抗性を獲得する。特に腫瘍排除に至らなかった免疫活性化は、免疫編集の結果、腫瘍に免疫逃避能を付与し(抗腫瘍免疫反応の「負の側面」)、腫瘍内の間質形成や浸潤・転移を促進することが考えられる。本研究ではタモキシフェン誘導型メラノーマ自然発症モデルとしてBRaf(CA)Pten(loxP)Tyr::CreERT2マウスを用い、耳介局所に腫瘍形成誘導を行い、腫瘍内微小環境の浸潤リンパ球について解析を行った。その結果、顎下リンパ節よりもメラノーマ抗原gp100(テトラマー)に反応するCD8陽性T細胞(CTL)が多く含まれていた。これらリンパ球の腫瘍特異的免疫応答を確かめていくため、標的となる腫瘍化メラノサイトを腫瘍部位から分離し株化細胞の樹立を進めている。その一方、昨年度から取り組みはじめた細菌ベクターによる嫌気性腫瘍微小環境修飾の研究から特殊な細胞変性・細胞死を介して腫瘍免疫応答を増強することを見出した。この細胞変性に伴う形態変化は、抗がん薬処理では得られずこのベクターの細胞内感染に依存すること、さらに動物実験結果から腫瘍特異的CTL誘導に至ることも分かった。実際、細胞内感染B16F10メラノーマ細胞は宿主食細胞の貪食刺激となったことから、担がん宿主における強力な免疫応答起点になることが示唆された。これら結果は、腫瘍細胞の免疫原性修飾となる変性刺激条件が存在し、それが宿主免疫応答と免疫逃避の分岐点になることを想起させた。
3: やや遅れている
タモキシフェン誘導型メラノーマ自然発症モデルマウスを自家繁殖する一方、3遺伝子型混合型個体の安定産出効率が自然発症モデル解析の律速段階になっている。昨年度から開始した細菌ベクターシステムの細胞解析が奏効し、B16F10メラノーマ細胞の移植がんモデルにおいて強力な宿主免疫応答に導くことができた。特に後者の実験結果からメラノーマ細胞の免疫原性獲得起点となる標的スイッチ分子(分子標的)が存在すると考えている。この分子同定とともに、メラノーマ自然発症モデルと移植がんモデルの使い分けから宿主免疫応答と免疫逃避の分岐点を追求したい。
新規に導入した細菌ベクター感染とメラノーマ細胞の特徴的な細胞変性について、トランスクリプトーム解析や免疫原性起点となるサイトカイン産生の変化など、細胞変性の特徴付けを進めていく。またメラノーマ細胞の免疫原性獲得起点となる標的スイッチ分子が存在を実証するため、CRISPR/Cas9系によるゲノムワイドスクリーニングからその分子同定を試みる。これらの腫瘍細胞側の解析情報を整理しながら腫瘍内微小環境の揺らぎと免疫編集について検討を進めていく。
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う社会的影響のため研究用物資の物流と研究活動自体が遅延した。またタモキシフェン誘導型メラノーマ自然発症モデルマウスの繁殖が律速段階にもなっていた。併せて(高額)委託費の執行にあたり、新規研究結果の解釈について慎重に検討・対応したため、その準備と関連試薬・消耗品などの支出が抑えられていた。次年度はベクター感染が誘導する細胞死の分子機構解析と免疫学的解析用試薬を購入し、全額執行する。
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