研究実績の概要 |
新規なプラズマジェットで作成したヘリウムプラズマを現在臨床使用されている輸液剤に照射することにより、従来のプラズマ活性化培地よりも臨床使用が容易であるプラズマ活性化輸液(Plasma-activated infusion, PAI)を創製した。PAIは腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘発リガンド(TRAIL)やプラズマ活性化培地よりも強力にヒトメラノーマ細胞や骨肉腫に細胞死を誘発した。その一方でPAIは正常皮膚および肺線維芽細胞の生存率にはほとんど影響を与えなかった。PAIはRIP1/RIP3活性化によりネクロトーシスを活性化し、mTOR経路の活性化を介してオートファジーを抑制した。また、In vivoで骨肉腫の増殖と肺転移を体重減などの副作用なく抑制した。PAIは時間、濃度依存的に細胞内一酸化窒素を増加させた。合成一酸化窒素供与体NOR-3、NOC-18は準毒性濃度で細胞内一酸化窒素を増加させ、PAIによる細胞死を著しく増強した。PAI中にはmM未満の亜硝酸イオンならびに硝酸イオンが検出され、それと同濃度の亜硝酸イオンの細胞外からの添加も細胞内一酸化窒素を増加させ、PAIによる細胞死も増強した。その一方で、PAIと亜硝酸イオンの併用投与は正常細胞は傷害しなかった。さらに、高濃度のPAI単剤や低濃度のPAIと一酸化窒素供与剤の併用はミトコンドリアネットワークの崩壊を誘発した。これに対して、細胞死が起こらない条件では、このようなミトコンドリアの形態変化は見られなかった。これらの結果からPAIと一酸化窒素供与剤の併用は有効かつ安全ながん治療法になると期待される。また、PAIによる抗がん作用には亜硝酸イオンを介する細胞内一酸化窒素産生とミトコンドリアネットワークの非可逆的傷害を介する非アポトーシス細胞死が重要な役割を果たすと考えられた。
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