研究課題/領域番号 |
18K08288
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
長田 真一 日本医科大学, 医学部, 准教授 (00244484)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | メラノーマ / PTEN / INPP4B / イノシトールリン脂質 / PI3K経路 / ノックアウトマウス |
研究実績の概要 |
2年目となる令和1年度は、以下の研究を行った。①昨年度に作製したPIP3レベルの異なるメラノーマから細胞株を樹立する。②①で樹立したメラノーマ細胞株における、PIP3を含むイノシトールリン脂質を質量分析法で網羅的に解析し、定量する。③①で樹立したメラノーマ細胞株を用いて、増殖能、浸潤能、転移能とPIP3量との相関を解析する。④①で樹立したメラノーマ細胞株をBRAFキナーゼ阻害薬で処理し、PIP3レベルと治療抵抗性との相関関係を調べる。①に関しては、細胞培養条件の確立に苦労したが、計画通りInpp4bの対立遺伝子数が異なる野生型株、ヘテロ変異株、ホモ変異株をそれぞれ2種類ずつ確立できた。②本研究では、甲状腺癌における報告に基づき、Pten変異にInpp4b変異が加わることにより、メラノーマ細胞内のPIP3量が増加すると予想していた。しかし、世界最高感度の質量分析装置を用いてイノシトールリン脂質を網羅的に解析したが、Inpp4b変異が加わることにより、細胞内のPIP3量がさらに増加する、という明確な相関はみられなかった。③Pten変異にInpp4b変異が加わることにより、PI3K経路がより活性化するため、細胞増殖能が亢進することが予想された。しかし、実験ごとのばらつきが大きく、はっきりとした結論を出すまでには至っていない。④に関しても同様で、BRAFキナーゼ阻害薬に対する抵抗性が高まることが予想されたが、実験によってはむしろ抵抗性が低下する、という結果が得られ、結論に至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Inpp4bの対立遺伝子数により、PIP3レベルが異なると考えられるメラノーマ細胞株の樹立は、時間はかかったがタイムスケジュール通りに進んだ。樹立したメラノーマ細胞株を用いた質量分析法によるイノシトールリン脂質の網羅的解析、および増殖能、BRAFキナーゼ阻害薬に対する感受性を調べる実験においては、研究計画立案時の予想と異なるデータが得られているが、計画自体は進んでいる。 昨年10月の異動により、研究試料、研究用試薬、細胞株などの移送や、新たな研究室のセットアップに時間を取られ、一時研究を中断せざるを得なかったが、総合的にみて大きな遅れはなく、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
甲状腺癌の解析から「Pten変異にInpp4b変異が加わると、細胞内のPIP3レベルが上昇してPI3K経路がさらに活性化されて、悪性度や治療抵抗性が高まる」というモデル(PIP3閾値モデル)が報告されている。私たちのこれまでの研究結果から、このモデルはメラノーマには当てはまらない可能性がある。実験を繰り返し、まずメラノーマにおけるこのモデルの検証を試みる。 一方で、今年度は現在進行中の次の研究計画を終了させる。①腫瘍内PIP3レベルとメラノーマ・マウスのAKT-mTOR経路の活性化状態(ウェスタン・ブロット)、腫瘍浸潤性Tリンパ球の数 (免疫組織染色)、腫瘍内のTリンパ球の浸潤に関わるサイトカインの発現(定量的PCR法)がどのように関連するかを解析する。②切除したメラノーマの手術標本を用いてPTENとINPP4Bの免疫組織化学染色を行い、PTENのみ発現が低下しているもの、INPP4Bのみ発現が低下しているもの、両者の発現が低下しているものに分類し、BRAF変異の有無、臨床ステージ分類、阻害薬に対する感受性との相関を調べる。 以上の結果がまとまり次第、専門誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年10月に秋田大学から日本医科大学に異動したため、研究試料等の移動、および新しい研究室のセットアップのために、一時研究を中断せざるを得なかった。そのため、本来秋田大学でのマウスの飼育管理費、および共同研究施設の使用料などに充てる予定だった経費を、次年度に持ち越すことになった。この経費は最終年度の論文投稿など成果報告で執行する予定である。
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