研究課題/領域番号 |
18K08294
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
青木 仁美 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 講師 (10550361)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Rest / 神経堤細胞 / 幹細胞 / 色素細胞 / 未分化維持 |
研究実績の概要 |
神経分化抑制因子Rest (RE-1-silencing transcription factor)は、発生過程に存在する幹細胞や胚性幹細胞で発現し、その未分化性の維持や分化に影響する。一方で、成体の組織に存在する幹細胞におけるRestの機能は、脳組織に存在する神経幹細胞での報告が数件あるものの、Restの発現が高い神経以外の多くの組織やその幹細胞ではほとんど解明されていない。本研究では、Restの発現の変化が組織幹細胞やニッシェに及ぼす影響を解析し、成体幹細胞におけるRestの機能解明を目指している。 成体色素幹細胞系譜は、その維持因子とニッシェの性質が詳細に解析されており、その分化や増殖の異常は白髪化を生じ、非侵襲的に経時的な観察を行うことができる。ただし、加齢に伴う白髪化は老化現象とされ、病気とはされておらず、科学的な根拠に基づく予防法や改善薬はない。 発生学的に色素細胞は神経堤細胞に由来し、神経堤細胞特異的なRestの欠損は色素細胞の発生を障害するが、成体で維持される色素幹細胞におけるRestの役割は未解明のままである。 今年度は、昨年度に引き続き、Restを欠損あるいは過剰発言させることのできる遺伝子改変マウスを用いて、成体マウスの毛包バルジ域をニッシェとして維持されるに存在する色素幹細胞やそのニッシェを構成する毛包幹細胞で特異的にRestの発現を変化させ、加齢性に伴う白髪化の程度を比較することで、色素幹細胞やそのニッシェ細胞でのRestの機能的役割を調べている。 これまでに、Restの欠損や過剰発現によって、劇的に白髪化したり、白髪化を改善する結果は観察されていないが、Restの過剰発現が白髪化を予防しうる例を得ており、その分子メカニズムを考察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度生じたマウスへの病原体の感染事故により、実験で使用中のマウスは処分され、当該年度、新たに遺伝子組換えマウスを作製しなおして、系統を維持することができしつつある。当該年度、実験に用いるマウスが準備できるようになったものの、これらの準備に時間を要したため、計画が遅れている。 前年度故障した放射線照射装置に変わる代替法として、薬剤による白髪化の誘導法を検討してきたが、局所的な作用のため、部位ごとに誘導される白髪化にばらつきが大きく、薬剤を処理した時ごとの変動も大きく、長期的な観察には不向きで、安定した結果を得るには至らなかった。 そのため、長期的な観察になるが、加齢に伴う白髪化の観察と背面の休止期抜毛による毛周期の促進を伴う白髪化を比較検討し、これらの観察に取り組んでいる。放射線を用いれば12週で結果が得られるところを、加齢変化の観察では結果を得るまでに60周以上かかるため、必要な高齢マウスの準備とこれらの観察に時間を必要としたため、計画が遅れている。 また、一部の遺伝子改変マウスに関しては、遺伝子発現制御に改良を加えるため、新たな遺伝子改変マウスを作製するのためのベクターの構築とES細胞への相同組換えを行ってきたが、ES細胞が病原体に感染してしまい、キメラマウスの作製を行えず、新たな遺伝子改変マウスを作製するに至らなかった。これに関しては、現在、別のES細胞用いたり、別のコンストラクトを設計し、ベクターを作製し直しており、計画が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者がこれまでに行ってきた、老化を模倣した白髪化の誘導法である放射線照射では、色素幹細胞自体が放射線により直接的に障害されるというよりは、むしろ、そのニッシェを構成する毛包幹細胞が障害をうけ、ニッシェ機能が破綻することにより、色素幹細胞は二次的に障害され白髪化する。 成体の脳や神経幹細胞において、Restの発現はアルツハイマーや認知機能障害などの一部の加齢性神経疾患と関連することが報告され、そのような病的な状態でRestは、幹細胞だけでなく、その周囲の細胞などでも発現が維持されず、それにより種々のストレスから神経を保護できなくなる。これは、Restが神経変性症に対する神経保護作用を持つことを示す。 成体色素幹細胞の異常による白髪化でも、Restの発現が色素幹細胞自体ないしはその周囲に存在するニッシェ環境で発現し、白髪化を抑制している可能性がある。そこで遺伝子改変マウスを用い、Restの発現を色素幹細胞あるいはニッシェで特異的に変化させ、Restが白髪化に影響するメカニズムを解析することで、Restによるニッシェ機能や色素幹細胞能の維持機構を解明することを目指す。 Restは抑制性の転写調節因子であるが、Restの欠損が神経堤細胞からの色素細胞の分化を損ない、過剰発現で色素幹細胞を保持するように作用することが期待されるため、色素幹細胞の維持においてRestは何らかの因子を介して間接的に関与することが予想される。これら因子を特定するために、色素幹細胞ないしはそのニッシェを構成する毛包幹細胞を分取し、Restの有無で発現の変動する遺伝子をマイクロアレイや二次元タンパク電気泳動などを行いて検出することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定外のマウスの感染事故により、実験に用いるマウスコロニーの回復と準備に時間を要し、作業や実験計画が大幅に遅れたため。また、その後のES細胞の感染などにより、新たに準備している遺伝子改変マウスの作製も遅れているため。 想定外の放射線照射装置の故障により、白髪化の代替法の検討が必要となり、その予備実験と検証に時間を要したため。 当該年度に準備できたマウスとベクターなどを用いて、年度をまたいで現在作業と実験を継続して行なっており、使用は年度内に完了する。
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