研究課題
表皮による生体防御反応の制御の仕組みは必ずしも十分に明らかにされていない。研究代表者らは、複数のアトピー皮膚炎動物モデルの皮膚で共通して発現が誘導されるただ1つの未知の遺伝子を見出し、epithelial stress-induced protein (ESIP) と名付けた。本研究では、ESIPの組換えタンパク、遺伝子導入細胞および遺伝子改変マウスを用いて、ESIPの発現機序とその作用点、および生体のバリア機能や炎症における役割を世界に先駆けて明らかにすることを目的とし、現時点で以下の研究実績を上げた。第1に、ESIPの発現様式について、野生型およびESIP欠損マウス初代培養表皮細胞に熱ショックストレスや小胞体ストレスを与え転写応答を比較した。ESIP自体の転写の誘導はみられなかったが、ESIP欠損細胞でIl6の発現促進がみられた。第2に、ESIPの作用点について、ESIP強制発現ヒト表皮細胞のトランスクリプトームのパスウェイ解析で、MAPK経路の促進がみられた。一方で、エネルギー代謝や脂質代謝の減弱がみられた。また転写因子のエンリッチメント解析で、HSF1、SMAD1/3の促進、STAT2の減弱がみられた。第3に、ESIPの生体機能について、ESIP欠損マウスではイミキモド塗布による乾癬様皮膚炎の誘導が減弱した。MC903塗布によるアトピー様皮膚炎の誘導には有意な差がみられなかった。ヒト3次元培養表皮の形成時にESIPを添加する群、添加しない群を設けて、バリア分子の発現をRT-qPCRおよび免疫染色で評価した。ESIP添加群では、フィラグリンやロリクリンなど、表皮細胞の後期分化に関わるバリア分子の発現低下がみられた。野生型およびESIP欠損マウス初代培養表皮細胞で、ESIP欠損細胞では高カルシウムによる分化誘導でフィラグリンやロリクリンの発現促進がみられた。
2: おおむね順調に進展している
ESIPの作用点について、主たる標的細胞を絞り込みを行っており、特定の細胞のトランスクリプトーム解析について表皮細胞以外についても検索を勧める方針としている。ESIPの生体機能について、探索し得た限りではノックアウト動物で炎症への影響は見られたものの、部分的な低下に留まっており、対象を拡大すべきかどうか検討中である。また誘導性ノックインについては交配中であり、発言誘導の確認作業を進めている。
合成ペプチドを用いた生体に対する影響を、トランスクリプトーム解析を行うことで標的となる細胞群を絞り込む方針とした。その他の計画に大きな変更はない。
今年度から次年度にかけて選択した対象細胞群について次年度にトランスクリプトーム解析を行うため、次年度使用額の一部を当該解析費に充てる。
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