抗PD-1抗体は、悪性黒色腫で明らかな臨床効果を示したが、単独使用では効果不十分で、 不応例に対する併用療法の開発と、奏効例を選別するバイオマーカーの探索が必要である。 研究代表者は以前、悪性黒色腫で活性化しているβ-catenin経路が、免疫抑制分子などを異所性に産生させ、免疫抑制を誘導している可能性を示した。本研究では、悪性黒色腫細胞、さらには担癌生体の免疫細胞において、本経路活性化が免疫抑制を誘導する機序を解明する。さらに、β-catenin経路を阻害できる薬剤を用いて、免疫抑制を解除し、既存の免疫療法の臨床効果を改善する併用療法を開発する。昨年度までに、β-cateninの間接的阻害剤として用いた脂質代謝阻害薬Yが、抗腫瘍免疫応答を増強できること、そのメカニズムの一つとして、がん細胞のβ-catenin経路に作用していることが、マウスモデルを用いて示されたので、本年度は、さらなるメカニズムの解明を行った。Yノックアウトマウスの担癌マウスモデルにおいても、抗腫瘍免疫応答の増強を認めた。さらに、Y阻害薬をin vitroでT細胞や樹状細胞に作用させると、その機能が増強する事が分かった。これらのことから、がん細胞以外に、免疫細胞などの宿主の細胞においても、Yは免疫抑制的な作用があることが分かった。これらの細胞でβ-catenin経路の活性化は顕著でなかったので、Y阻害薬は、それ以外の作用で、免疫細胞に対して直接機能増強作用があることが示唆された。Y阻害薬と抗PD-1抗体の併用療法は、担癌マウスにおいて相乗的な抗腫瘍効果を示した。以上のことから、Y阻害薬は、免疫細胞と悪性黒色腫の二つに作用し、抗腫瘍免疫応答を増強させることができ、抗PD-1抗体の併用薬として有用であることが分かった。
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