研究課題
本研究においては、骨髄異形成症候群(MDS: Myelodysplastic syndrome)に伴う後天性鉄芽球性貧血(MDS-RS: MDS with ring sideroblasts)の病態解明を目指す。申請者のグループが行なっている鉄芽球性貧血に関する全国規模の調査研究及び東北大学病院血液免疫科外来において、現在多数例のMDS-RS症例が登録されている。シークエンスにてSF3B1の変異が確認されたMDS-RS症例のうち、同意の得られた患者及び対照症例の骨髄細胞から、赤芽球系細胞マーカーであるCD235a陽性細胞をMicrobeads kit を用いて分離し、SF3B1変異を認めない症例も含めてRNAシークエンスを施行し他結果、SF3B1変異を有する症例では先天性鉄芽急性貧血の原因遺伝子の1つであるABCB7遺伝子の発現低下を示すことを明らかにした。さらにABCB7遺伝子をヒト臍帯血造血幹細胞由来赤芽球細胞株にて本遺伝子をノックダウンすることで、環状鉄芽球が形成されることを確認した。この結果より、MDS-RSにおける環状鉄芽球形成機序についても先天性と共通の分子基盤が存在する可能性が示唆された。一方、SF3B1変異陰性MDS-RS症例においては、先天性のALAS2遺伝子変異の有無についてサンガー法にて検討する。MDS-RSのモデル動物、モデル細胞の樹立に関しては、TET2+ALAS2複合変異赤芽球およびマウスの樹立を進めており、解析に移行する予定である。ALAS2単独変異のヘテロマウスでは、貧血および末梢血へのsiderocytesの出現を認めている(Saito and Fujiwara et al. Molecular and Cellular Biology 2019)。また赤芽球系細胞株を用いてCRISPR/Cas9法によりSF3B1遺伝子変異を導入し、その形質を解析している。
2: おおむね順調に進展している
申請者のグループが行なっている鉄芽球性貧血に関する全国規模の調査研究及び東北大学病院血液免疫科外来において、多数登録されているMDS-RS症例の遺伝子解析も進行中の状況であり、さらにMDS-RSのモデル細胞・動物の作製も進行しつつあり、全体としてはおおむね順調に進展している。
SF3B1変異陽性のMDS-RS症例の赤芽球を用いた網羅的発現解析・機能解析については、臨床検体のみ解析でなく、CRISPR/Cas9技術によりヒト赤芽球細胞株にSF3B1変異を導入することで、MDS-RSのモデルを樹立し、臨床検体の解析で得られた結果の詳細な分子学的意義を明らかにしていくためのツールとする。TET2+ALAS2複合遺伝子変異のモデル細胞・モデル動物の解析は進行中であるが、複合変異導入マウスが新規の後天性鉄芽球性貧血のモデル動物となりうるか検討する。具体的には、血算、骨髄赤芽球における環状鉄芽球の有無、鉄プロファイルを中心とした生化学検査を行い、環状鉄芽球が得られた場合は上述のin vitroの環状鉄芽球と同様の解析を行う。SF3B1変異陰性の変異解析においては、特に大球性貧血、女性における貧血の家族歴、鉄過剰症などの有無を参考にするが、男女ともALAS2遺伝子の後天性の遺伝子変異を呈する可能性も考慮し、全例について解析を行う。もし、ALAS2遺伝子変異が同定されない場合は、SLC25A38、ABCB7などの先天性鉄芽球性貧血の他の原因遺伝子についても着目する。遺伝子変異が同定された症例については、先天性変異の確認の目的で頬粘膜など体細胞における変異も確認する。以上の解析を通じて、MDS-RSにおける環状鉄芽球の形成機序の一端を明らかとすることを目指す。
網羅的遺伝子解析のための支出が来年度以降も必要となる見込みとなり、当該分の予算を次年度分に充てる必要が出たため。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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