研究課題
本研究においては、骨髄異形成症候群(MDS: Myelodysplastic syndrome)に伴う後天性鉄芽球性貧血(MDS-RS: MDS with ring sideroblasts)の病態解明を目指す。申請者のグループが行なっている鉄芽球性貧血に関する全国規模の調査研究及び東北大学病院血液免疫科外来において登録されているMDS-RS症例由来の造血幹細胞を用いてRNAシークエンスを施行し他結果、SF3B1変異を有する症例では先天性鉄芽球性貧血の原因遺伝子の1つであるABCB7遺伝子の発現低下を示すことを明らかにした。さらにデータベース解析により、ミトコンドリアへの鉄輸送体であるSLC25A37遺伝子の発現上昇も認めたため、この意義をin vitroの系で検証中である。具体的にはSLC25A37の発現プラスミドを通じてHUDEP2細胞に発現後に赤芽球系に分化誘導を行うことにより、環状鉄芽球の出現を確認している。MDS-RSのモデル動物、モデル細胞の樹立に関しては、TET2+ALAS2複合変異赤芽球およびマウスの樹立を進めており、樹立後に解析に移行する予定である。TET2+ALAS2複合変異を認めた症例ではALAS2のR170における点変異を認めたため、現在iGONAD法によるゲノム編集技術を用いてマウスにおいて同様の変異導入を試みている。またモデル細胞に関してはヒト臍帯血由来赤芽球系細胞株(HUDEP2)を用いてCRISPR/Cas9法によりSF3B1遺伝子変異の導入を試みているが、樹立に至っていない。現在、その代替として変異SF3B1の発現プラスミドを作成し、HUDEP2細胞に発現後に赤芽球系に分化誘導を行うことにより、環状鉄芽球の出現を確認している。
3: やや遅れている
マウスモデルの樹立(マウスにおける点変異導入)に想定以上に時間を要している点が挙げられる。
SF3B1変異陽性のMDS-RS症例の赤芽球を用いた網羅的発現解析・機能解析については、臨床検体のみ解析でなく、CRISPR/Cas9技術によりヒト赤芽球細胞株にSF3B1変異を導入することで、MDS-RSのモデルを樹立し、臨床検体の解析で得られた結果の詳細な分子学的意義を明らかにしていくためのツールとする。TET2+ALAS2複合遺伝子変異のモデル細胞・モデル動物の解析は進行中であるが、複合変異導入マウスが新規の後天性鉄芽球性貧血のモデル動物となりうるか検討する。具体的には、血算、骨髄赤芽球における環状鉄芽球の有無、鉄プロファイルを中心とした生化学検査を行い、環状鉄芽球が得られた場合は上述のin vitroの環状鉄芽球と同様の解析を行う。SF3B1変異陰性の変異解析においては、特に大球性貧血、女性における貧血の家族歴、鉄過剰症などの有無を参考にするが、男女ともALAS2遺伝子の後天性の遺伝子変異を呈する可能性も考慮し、全例について解析を行う。もし、ALAS2遺伝子変異が同定されない場合は、SLC25A38、ABCB7などの先天性鉄芽球性貧血の他の原因遺伝子についても着目する。遺伝子変異が同定された症例については、先天性変異の確認の目的で頬粘膜など体細胞における変異も確認する。以上の解析を通じて、MDS-RSにおける環状鉄芽球の形成機序の一端を明らかとすることを目指す。
研究の進行が想定よりも遅れているため次年度にマウスの維持・解析、試薬類(RNA解析、培養用試薬)および研究成果発表のための学会参加費に充てる予定。
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