研究課題/領域番号 |
18K08322
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
大石 晃嗣 三重大学, 医学部附属病院, 准教授 (00397506)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リンパ球系分化 / Bリンパ球系細胞 / 形質細胞様樹状細胞 |
研究実績の概要 |
これまでヒトリンパ球系分化経路はほとんど明らかにされていない。その主な理由は様々なリンパ球系細胞分化を支持する培養系がなかったからである。本研究の目的は、これまで明らかにされていないヒトリンパ球系分化を、我々が確立したproT、proB、NK細胞などの様々なリンパ球系細胞、および形質細胞様樹状細胞(pDC)やconventional DC (cDC)などの樹状細胞への分化を同一条件下で包括的に支持する不死化ヒトストローマ細胞との共培養系を用いて明らかにすることである。 リンパ球系前駆細胞として、多能性リンパ球性前駆細胞 (multi-lymphoid progenitor、以下MLP)や、B/NK前駆細胞などが報告されている。これまでの研究により、① B/NK前駆細胞分画(CD34+CD38+CD45RA+CD10+細胞、以下10SP)を含む様々なリンパ球系前駆細胞は、c-kit陽性分画と陰性分画に分かれ、c-kit陽性分画は陰性分画よりも細胞増殖能が高く、proT細胞、proB細胞、NK細胞、pDC、cDC、単球への分化能を持つこと、② 10SPのc-kit陰性分画はBリンパ球系に分化が偏向しており、NK細胞、pDC、cDC、単球への分化能が低下していること、などが明らかとなってきた。さらに、10SP分画の細胞は、IL-7RとLFA-1の発現により分化能が細分化され、MLPと同様の多分化能を持つ細胞分画や、BとpDCへの分化能を持つ分画、さらにpDCあるいはBへの分化能に偏向した分画、などに分かれることなどが明らかとなってきた。このように、我々の新規培養系を用いて解析することにより、MLPからBおよびpDCへの分化経路が明らかとなってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、ヒト造血幹細胞は、骨髄球系前駆細胞とリンパ球系前駆細胞に分かれ、さらに様々なリンパ球系細胞に分化すると考えられてきた。しかし、様々なリンパ球系細胞に加え、単球とpDCへの分化能を持つ多能性リンパ球系前駆細胞 (MLP)が同定され、リンパ球系分化に対する概念が大きく変わりつつある。 本研究により、① B/NKリンパ球系前駆細胞と考えられてきた10SP分画に、MLPと同様に多分化能を持つ分画 (c-kit+IL-7R-)が存在すること、② c-kit+IL-7R+分画はBとpDCとNK細胞への分化能を持つが、LFA-1の発現が高くなるとpDCに分化が偏向し、LFA-1の発現が低下するとBリンパ球系に分化が偏向すること、③ c-kit陰性化とともにBリンパ球系に分化がシフトし、NKやpDCなど他の細胞系列の細胞への分化能が低下すること、などのデータが得られつつある。 これまで、10SP分画にMLPと同様の多分化能を持つ細胞分画があることや、BとpDCの共通の前駆細胞の存在、およびその後のBおよびpDCへの分化経路に関する報告はなく、本研究によりヒトリンパ球系分化経路に関する新知見が得られつつある。従って、本研究の目的であるヒトリンパ球系分化の研究は順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
我々が確立した新規の培養系により、ヒトリンパ球系分化、特にBおよびpDCの分化経路に関する新しい知見が得られつつある。今後は、さらに以下の点について研究を行う予定である。 1) BとpDCの共通の前駆細胞の同定:これまでの結果から、BとpDCの分化経路は密接に関連しており、10SPのc-kit+IL-7R+LFA-1+分画に共通の前駆細胞が存在していることが明らかとなってきた。c-kitやLFA-1の発現により、この細胞分画の細胞をさらに細分化し、BとpDCにのみ分化する細胞分画を同定する。さらに、single cell assayを用いて、共通の前駆細胞の存在を確認する。 2) B/pDC前駆細胞からの分化プロセス: c-kit陰性分画はpDCへの分化能は極めて低く、Bリンパ球系に分化がかなりコミットしていること、LFA-1の発現が高いほどpDCに分化が偏向していること、などのデータを基に、c-kitやLFA-1の発現を、陽性/陰性と分けるだけでなく、highとlowに分けて解析するなど、さらに詳細に検討することにより、proBとpDCへの分化経路を解明する。 3) 遺伝子解析:以上の分化経路に関する知見を、個々の細胞レベルで分子学的に明らかにするために、single cell RNA-teq解析を実施し、分化経路の関係性や、個々の細胞レベルでのBやpDC分化に特徴的な遺伝子の発現などについて解析を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
我々が確立したin vitro培養系により、MLPからproBとpDCの分化経路の緊密性や、共通の前駆細胞の存在が示唆される結果が得られた。この分化経路に関する知見を個々の細胞レベルで分子学的に明らかにするため、前倒し支払い請求をして必要な試薬やキットを購入し、single cell RNA-teq解析を実施した。しかし、実際に購入した試薬代が予想より少なくなっため、473,579円の残額が生じた。 次年度は、single cell assayなどの培養と、single cell RNA-teq解析で得たデータを基に、ヒトリンパ球系分化経路について解析を進めていく予定である。
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