研究課題/領域番号 |
18K08326
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
冨山 佳昭 大阪大学, 医学部附属病院, 准教授 (80252667)
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研究分担者 |
柏木 浩和 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (10432535)
加藤 恒 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (20705214)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インテグリン / GPIIb-IIIa / 血小板 / 後天性血小板無力症 / 自己抗体 |
研究実績の概要 |
本研究では、血小板機能の中核をなすインテグリンαIIbβ3(GPIIb-IIIa)の制御分子の同定、解析を目的としている。本年度はGPIIb-IIIaの機能阻害の病態として、後天性血小板無力症(aGT)に注目した。aGTではその大多数はGPIIb-IIIaは正常に発現しており、リガンド結合を阻害する自己抗体により発症する。申請者らは、GPIIb-IIIaが欠損しているユニークなaGTの病態解析を行った。解析症例は72歳、男性のITP患者で、50歳台ごろより血小板数は回復するも、出血症状が悪化してきた。各種アゴニストによる血小板凝集が欠如しており、フローサイトメトリー(FCM)による血小板表面のGPIIb-IIIa発現解析では、健常者の5%程度と著減していた。一方、血小板可溶液を用いたWestern blotでは正常サイズのGPIIbおよびIIIaの発現を認め、その発現量は健常者の50~100%程度であり、血小板表面と血小板内のGPIIb-IIIa発現量に乖離を認めた。患者血小板解離液および血漿中に抗GPIIb-IIIa抗体を認めたが、この抗体は正常血小板のアゴニスト刺激下でのリガンド結合を阻害しなかった。抗体のエピトープ解析では、他のITPの抗体との相違は明らかではなかった。GPIIbおよびGPIIIa cDNAの全翻訳領域において遺伝子異常は認めなかった。培養実験において巨核球細胞株や培養巨核球に抗体を作用させると、GPIIb-IIIa の発現が低下する傾向が認められた。解析開始後より2年後に患者の出血症状が改善傾向となり、再度GPIIb-IIIa発現を検討したところ、FCMにて健常者の20%程度までGPIIb-IIIa発現の回復を認めた。以上の成績より、本aGTの病態としてGPIIb-IIIaの機能を障害せずその発現を減弱する抗体が、関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、血小板機能の中核をなすインテグリンαIIbβ3(GPIIb-IIIa)の制御分子の同定、解析を目的としている。申請者らは、本研究においてすでにインテグリンαIIbβ3活性化の制御分子であるCalcium and diacylglycerol (DAG)-regulated guanine nucleotide exchange factor I (CalDAG-GEFI)の欠損例(世界4例目)の同定およびその機能解析に成功している(Blood 2016)。申請者らは、その詳細な機能解析を行い新たに開発したαIIbβ3の活性化スピードを解析するinitial velocity assayを用いてCalDAG-GEFIではαIIbβ3活性化は誘導されるものの、その活性化スピードが遅延しているために出血症状を来すことを明らかにした。 昨年度は、トロンビン受容体からのαIIbβ3活性化に関して、PAR4受容体120番目のアミノ酸多型rs773902(Ala120、Thr120)に着目して解析を行った。その結果、Thr120を有する血小板では、Ala120を有する血小板に比べ有意差を持って低濃度のPAR4活性化ペプチドにて不可逆的な血小板凝集が誘導された。この現象は発現実験でも確認された。以上より、PAR4受容体120番目のアミノ酸多型rs773902(Ala120、Thr120)によりPAR4活性化ペプチドによる血小板の反応性に差があることが明らかになった。 さらに本年度において、αIIbβ3の発現を減弱する自己抗体による新たな病態としての後天性血小板無力症の病態を明らかにすることに成功している。 以上のように、インテグリンαIIbβ3(GPIIb-IIIa)の制御分子の同定、解析に関して着実に成果を挙げている。
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今後の研究の推進方策 |
血小板機能の中核をなすインテグリンαIIbβ3(GPIIb-IIIa)の制御分子の同定、解析を目的とした本研究は、おおむね順調に進展しているが、申請者らの新たな知見を発展するために以下を計画している。 1.インテグリンαIIbβ3(GPIIb-IIIa)異常に起因する病態としてGPIIb-IIIaの異常に関連した先天性巨大血小板減少症の病態をすでに明らかにしている(Blood 2011, Mol Genet Genomic Med. 2013)。申請者らはGPIIb(R995W)変異(マウスではGPIIbR990W)に注目し、そのノックインマウスを作製しているが、機能への影響に加えその変異の造血機能への影響を検討する。 2.申請者らの開発したinitial velocity assayやフローチャンバーによる流動化血小板血栓形成解析法などを用いて、種々のインテグリンαIIbβ3(GPIIb-IIIa)の制御分子異常症(血小板無力症、ADP受容体P2Y12欠損症、Kindlin-3欠損症、CALDAG-GEFI欠損症)におけるαIIbβ3の詳細な機能解析を行う。
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