研究課題
骨髄腫(MM)細胞のTAK1の発現・活性化亢進機序としてTAK1の発現やリン酸化の亢進に、脱リン酸化酵素の関与が示唆されたため、脱リン酸化酵素の役割を詳細に検討した。1)MM細胞にセリン・スレオニンフォスファターゼであるPP2Aの阻害剤(オカダ酸)を処理するとTAK1のリン酸化が誘導される一方、PP2Aの活性剤(SMAP)によりリン酸化TAK1の発現が抑制され、細胞死を誘導した。2) PP2Aの活性は、内因性PP2A抑制因子であるCIP2A, PME-1, SETなどの発現により調節されているが、その中でもCIP2AがMM細胞において高発現していた。3) CIP2AノックダウンによりTAK1のリン酸化及びその発現が抑制され、細胞死が誘導された。4) TAK1阻害によりMM細胞のCIP2Aの発現が抑制された。さらに、CIP2AはTNF-αやIL-6など腫瘍環境において過剰産生されている分子により発現が誘導されたが、TAK1阻害によりそれらの発現誘導は顕著に抑制された。5) 骨髄間質細胞との共培養によりMM細胞のCIP2Aの発現は亢進した。6) TAK1阻害はP13K-AKT経路を直接的には阻害しないが、TAK1阻害によりCIP2A発現を抑制させるとIGF-1によるAKTのリン酸化が顕著に抑制された。一方、CIP2Aの過剰発現によりIGF-1によるリン酸化AKTの圧減が亢進した。また、TAK1経路が制御する骨髄腫細胞が産生する分泌蛋白の探索のため、MM細胞の分泌蛋白のプロテオーム解析を行なった。4種類のMM細胞株と正常末梢血単核細胞のそれぞれの上清から分泌蛋白を同定し、クラスター解析にてMM細胞が特異的に分泌する155の蛋白を抽出した。TAK1阻害薬により濃度依存的に4つのMM細胞株の全てで減少する分泌蛋白をスクリーニングし、クラスター解析にて64蛋白を抽出した。
2: おおむね順調に進展している
培養系の実験は予定通り進められ、骨髄腫細胞におけるTAK1発現と活性化亢進の機序が明らかになった。また、新規の治療標的としてCIP2Aが見出された。(5Z)-7-oxozeaenol (LL-Z1640-2; LLZ)が新規機序により骨髄腫細胞の薬剤耐性を克服し、かつこれまでの治療では回復が見込めなかった骨喪失病変部に骨形成を誘導するユニークな新規治療薬になる可能性を、培養系と動物モデルで示すことができたため、(5Z)-7-oxozeaenol LL-Z1640-2の欠点である不安定性を改善し、活性のより優れた新規のTAK1阻害薬の合成を進めているが時間を要している。閉経後骨粗しょう症の動物モデルである卵巣摘出マウスに対し、LL-Z1640-2は骨量減少を防止することを見出し、(5Z)-7-oxozeaenol LL-Z1640-2の安全性を確認できた。
1)上述の骨髄腫細胞の分泌蛋白のプロテオーム解析にて抽出した分泌蛋白は骨髄腫の進行および予後のマーカーの候補になるとともに機能性蛋白として病態に関わっている可能性がある。そこで、病期進行および予後の相関する骨髄腫特異的バイオマーカーになり得るかどうか、機能性蛋白としての活性を有するものは骨髄腫の各種病態の形成に関わっているかどうかを解明する。そして、これらの分泌蛋白の産生機序と治療薬による影響をしらべる。2)(5Z)-7-oxozeaenol ならびにそれを改変した化合物の抗腫瘍活性を培養系で確認し、in vivoでの安全性と治療効果を検証する。luciferaseを遺伝子導入したマウス5TGM1骨髄腫細胞株(入手済み)を脛骨内移植し作成した骨髄腫動物モデル(Hiasa, et al. Leukemia 2015)に投与し安全性と治療効果を検証する。3)成熟骨芽細胞による骨髄腫進展抑制という興味深い現象を見出したため、その分子機序の解明に関して検討を進める。
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