研究課題/領域番号 |
18K08337
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
阿部 朋行 自治医科大学, 医学部, 講師 (20610364)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞 / 造血幹細胞 / 動物体内 / 胎仔 / ヒツジ |
研究実績の概要 |
骨髄や臍帯血を用いた造血幹細胞移植は、がん治療や細胞移植のための有効な治療手段である。造血幹細胞のドナー不足が続く近年、新たな移植細胞源としてiPS細胞の活用が期待されているものの、iPS細胞の造血幹細胞への分化誘導はいまだに難しいのが現状である。このような背景の中で申請者らは、妊娠早期のヒツジ胎仔が免疫寛容を誘導することを利用し、造血発生の場である肝臓内でヒトiPS細胞由来の中胚葉細胞から造血幹細胞を分化させることに成功した。しかしながら、ヒツジ胎仔肝臓内でのヒト造血幹細胞の産生・分化のメカニズムは明らかにできていない。そこで本研究では、①ヒツジ胎仔体内でのヒト中胚葉細胞の動態・変化を明らかにし、ヒツジ造血支持細胞との共培養系を用いて②造血幹細胞の産生・分化に寄与する因子を抽出することで、試験管内での分化誘導技術の開発を目指す。 平成30年度は、ヒトiPS細胞由来の中胚葉細胞を移植した後にヒツジ胎仔肝臓や骨髄の組織切片を作製し、汎血球マーカーであるCD45、Notch経路活性化のマーカーであるN1ICD、Nocth経路下流因子Hes-1に対する抗体で免疫染色を行うことで、CD45陽性ヒト血液細胞がヒツジ胎仔肝臓内でNocthシグナルを活性化することを示した。令和元年度は、造血幹細胞やリンパ球系、赤血球系、血小板系のマーカーを発現するヒト細胞を検出し、ヒトiPS細胞由来中胚葉細胞がヒツジ胎仔肝臓内で造血幹細胞へと分化し、多系統分化能を獲得することを示した。また、造血発生に関与することが推測されるヒツジ胎仔組織として、これまでに肝臓や骨髄、臍帯静脈を採取し、初代培養ならびに不死化を行い、複数株のストローマ細胞または血管内皮細胞を得た。現在、これらの細胞とヒトiPS細胞由来の中胚葉細胞を共培養し、Notch経路の活性化マーカーN1ICDの発現を免疫染色で評価している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒツジ胎仔体内でのヒトiPS細胞由来中胚葉細胞の動態解析を目的として、令和元年度は、これまでに採取した移植1週間から2ヶ月後のヒツジ胎仔肝臓および骨髄サンプルを用いて、リンパ球系や赤血球系などの血球系統別マーカーの免疫染色を行なった。その結果、移植28日後のヒツジ胎仔肝臓内で、リンパ球系マーカーCD2、赤血球系マーカーCD71、血小板系マーカーCD42bを発現するヒト細胞(ヒト特異的マーカーとしてSUN2で染色)を検出した。また造血幹細胞のマーカーであるSCLを発現するヒト細胞も検出できた。これらのことから、ヒツジ胎仔肝臓内において、ヒトiPS細胞由来中胚葉細胞は造血幹細胞へと分化し、多系統分化能を獲得したことが示された。 また、試験管内での分化誘導技術への応用を目指し、共培養系の確立を試みている。平成30年度は、造血発生に関与することが推測されるヒツジ胎仔組織由来の造血支持細胞として、肝臓および骨髄からストローマ細胞を、臍帯静脈から血管内皮細胞を培養した。令和元年度は、肝臓および骨髄由来のストローマ細胞、臍帯静脈の血管内皮細胞について、複数株を不死化した。そこで現在、これらの細胞とヒトiPS細胞由来の中胚葉細胞を共培養し、Notch経路の活性化マーカーN1ICDの発現を免疫染色で評価し、有効性を検証している。
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今後の研究の推進方策 |
移植前は陰性であったCD45およびN1ICDが陽性化したという結果から、これらのマーカーが共培養系の有効性検証の指標として重要と考えられる。今後、得られたストローマ細胞株および血管内皮細胞株を用い、ヒトiPS細胞由来の中胚葉細胞と共培養を行うことで、支持細胞としての有効性を評価していく。共培養の方法として、従来の共培養法だけでなく、細胞外マトリクスによる新たなコーティング法や凝集法などのオルガノイド作成技術も試みていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒツジ胎仔肝臓内におけるヒト細胞の動態を解析する過程で、従来(他の文献でも)使用されていたヒト特異的に反応する抗体の局在パターンが、想定されるターゲットの存在場所と異なることが判明した。本研究遂行上、多系統分化細胞検出用のマーカーとは異なる局在を示す、ヒト細胞特異的マーカーは極めて重要であることから、急きょヒト細胞のマーカーの探索・変更に時間を要した。その結果、予定では多系統血液細胞の分化の解析は1系統複数マーカーだったが、1系統2マーカーに減らして解析したことから、抗体の購入量が減ったために次年度使用額が生じた。現在はすでにヒト特異的マーカーを決定できたので、次年度に多系統分化細胞を検出するための抗体の追加を検討する。
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