本研究ではUSP10の基質蛋白を同定し、USP10による造血幹細胞維持機構の分子メカニズムを解明することを目的としている。昨年度までにMEF KO細胞およびヒト大腸癌細胞株HCT116 KO細胞を用いた解析により、USP10はDNA2重鎖切断(DSB)修復、特に相同組み換え修復(HR)に重要であり、これにはUSP10によるProtein Phosphatase 6 (PP6) を介したDNA-PKcs 活性の制御が関与していることを見出した。またUSP10変異体を用いた解析により、この活性には脱ユビキチン化活性が必須であること、G3BP1との結合は不要であることを明らかにした。 USP10はC末側に酵素部位がありN末側は局在や基質との結合に利用されていると考えられる。そこで種々のN末欠失変異体を作製し、DSB修復に必須な部位の同定を試みた。その結果N末138アミノ酸まで欠失した変異体は修復活性を保持していたが、166アミノ酸まで欠失させると修復活性を失うことがわかった。したがって139~166部位が修復活性に関わることが示唆された。配列を解析した結果、この部位は核小体移行シグナルとして機能することが示唆された。そこで核小体への移行がUSP10の修復活性に必須であることを明らかにするため、別の脱ユビキチン化酵素USP36の核小体移行シグナルと入れ替えたところ、この変異体も修復活性を保持していた。しかしながらUSP10の核小体への局在ははっきりとせず、一部が核小体近傍へ局在しているのみであった。 以上より、USP10は核小体近傍へ局在し何らかの基質を脱ユビキチン化することでPP6およびDNA-PKcs活性を制御している可能性が示唆された。今後は核小体に存在する蛋白に焦点を絞り、USP10の基質の同定を試みる。
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