研究課題
平成30年度は不適合HLA-DP特異的T細胞を効率良く誘導するための培養条件の検討を中心に研究を進めた。同種造血細胞移植後に不適合が起こりやすいHLA-DPの組み合わせのうち、欧米と比較して日本人に多いHLA-DP型であるDPB1*09:01-A1*02:01についてまず検討を行った。HLA- DPB1*09:01陰性の健常ボランティアより採血を行い、CD4+CD45RA+ナイーブT細胞およびCD4+CD45RA-メモリーT細胞に分離し、DPB1*09:01-A1*02:01を導入したK562細胞株を刺激細胞として2~3回刺激し、増殖が認められたところで限界希釈法によるT細胞クローニングを実施した。増殖したクローンについて、HLA拘束性の再確認とともに、組織・細胞種特異性を検討した。2回の誘導実験とも、メモリーT細胞よりもナイーブT細胞の方が増殖反応を示した。そこでナイーブT細胞培養からクローニングを実施し、11種類のクローン化T細胞を得た。DPB1*09:01-A1*02:01導入K562への反応性を再確認したところ、うち3クローンで特異的なインターフェロンγ産生が確認された。さらに3クローンについてボランティアの自己B細胞株、2種類の白血病細胞株、2種類の非血液細胞株にDPB1*09:01-A1*02:01を導入したものと元細胞との反応性を比較したところ、1クローンについて単球系白血病細胞株だけを認識するものが認められたが、自己B細胞株は認識しなかった。以上の結果より、非自己アロHLA-DP特異的T細胞はナイーブT細胞分画に多いこと、今回得られたクローンは全ての血液細胞がもつ共通抗原を認識するものではないことが分かった。今後、クローニング効率を上げ、より多くのクローンをスクリーニングする必要性がある。次年度は移植後患者末梢血を用いてT細胞誘導を進める予定である。
3: やや遅れている
研究代表者が研究期間中に所属施設を異動したため、異動先での生命倫理審査の新規申請手続きに想定外の長い時間を要し、患者から研究試料を採取できず、予定より遅れた。このため、先に異動先の名古屋大学の生命倫理審査委員会で承認された健常ボランティアの血液を用いた条件設定が主体となった。検討の結果、メモリー分画よりもナイーブ分画にあるT細胞にアロ抗原特異的細胞が多いことが判明した。また同種造血細胞移植により患者の不適合HLA-DP抗原でまだ感作を受けていないナイーブT細胞という刺激の難しい細胞からも期待より少ないながらクローンが得られたことの意義は大きいと考えている。
研究方針について当初からの変更はない。2018年度の研究で、HLA-DP特異的T細胞誘導培養上で解決すべき問題点(反応T細胞分画、刺激細胞、刺激間隔、培養液組成)も把握出来たため、次年度は患者試料を用いて、より生理学的な状態にあるアロ抗原感作T細胞を用いて研究を進める。また特異性の確認のためのさまざまな細胞株に標的HLA-DPを導入したパネルがまだ不十分であるため、これも充実させていく。血液系細胞特異的な抗原を提示するHLA-DP拘束性T細胞クローンが得られ、それが拘束性HLA-DP型分子を発現するK562を傷害することが確認出来次第、すでに作成したK562白血病細胞株から得たmRNAより作成済みのcDNAライブラリーを用い、発現スクリーニング法で抗原遺伝子の同定を試みる。さらに同T細胞クローンよりT細胞受容体遺伝子を取り出して、レトロウイルスベクターに組み込み、遺伝子改変T細胞としての機能解析を行う予定である。
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J Immunol Methods
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