研究課題/領域番号 |
18K08342
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
太田 明伸 愛知医科大学, 医学部, 講師 (30438048)
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研究分担者 |
武井 則雄 北海道大学, 医学研究院, 助教 (50523461)
花村 一朗 愛知医科大学, 医学部, 教授 (70440740)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多発性骨髄腫 / 悪性化 / PBK / 治療 / マウス |
研究実績の概要 |
研究代表者は、骨髄腫(以下、MM)細胞において、サイトカインの一種であるインターロイキン6がPBZ binding kinase(以下、PBK)の発現レベルを著明に上昇させることを見出し、その分子機序の解明を進めてきた。これまでに、MMにおけるPBKの高発現は、MM患者の生存期間短縮と関連すること、また、MM細胞におけるPBK発現の喪失は、MM細胞の造腫瘍性を著明に低下させることを発見した。本年度は、PBKの治療標的分子としての可能性を検証するために、PBKに対する特異的小分子阻害剤OTS514を用いた治療実験を行った。OTS514は、オンコセラピー・サイエンス社が開発したPBK(TOPK)を標的としたキナーゼ阻害剤であり、すでに腎臓がん細胞や急性骨髄性白血病細胞に対する有効性が報告されている。代表者は皮下移植法によって、ヒト骨髄腫細胞株KMS-11をscidマウスに生着させ、腫瘍体積が200(mm3)に達した時点からOTS514の腹腔内投与治療を開始した。合計5日間の連続投与を行ったところ、腫瘍体積は対照群に対して有意に縮小する一方(P < 0.01)、OTS514投与による目立った体重減少は認められなかった。以上の結果から、骨髄腫に対するPBKを分子標的とした治療は有効である可能性が強く示唆された。 MMに対するPBK阻害剤OTS514の治療応用が期待される一方で、正常細胞や臓器または個体の成熟過程におけるPBK喪失の影響は全く分かっていない。そこで、代表者はCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集を用いたPBK遺伝子破壊マウス(PBK-KOマウス)の樹立を行い、PBKが個体の発生や成熟に及ぼす影響を解析する方針とした。現在、分担研究者がPBK-KOマウスの作出をが進めており、個体が得られ次第表現型の解析をおこなう予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は、当初の目的であったPBKが骨髄腫治療の分子標的として有望であるかどうかを検討すべく、PBK特異的阻害剤を用いたxenograft実験を行い、PBK阻害剤OTS514の高い抗腫瘍抑制効果を見出した。 また、PBK-KOマウス樹立に用いるCRISPR/Cas9システムのゲノム標的配列デザインやゲノム切断効率の試験を終え、分担研究者による動物作成実験が開始している状況にある。 以上より、本研究は当初の計画どおりに推移している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまでの成果をとりまとめた学術論文を国際誌に公表し、本研究で得られた知見を広く周知する予定である。 また、治療標的分子としての可能性を探索すべく、PBK遺伝子を破壊したマウス(PBK-KOマウス)の作成が現在進行中であるため、今後はPBK-KOマウスの樹立とその表現型の解析を行う。表現型の解析は、分担研究者の協力を得ながら、体重、生化学検査、血液学的検査や免疫学的検査を行う。PBK-KOマウスが得られない場合は、その原因を特定するために胎児期のマウスを解析する必要性があるため、分担研究者とともに詳細な原因究明を行っていく予定である。 これまでの研究結果から、PBKが骨髄腫の悪性化に関与する可能性が強く示されたが、その分子機序には不明な点が残されている。PBKが多発性骨髄腫細胞の生存や増殖に及ぼす影響を分子レベルで解明するために、in silico解析やゲノム編集を用いたPBK変異体株の作出を行う。PBKタンパク質は、セリン/スレオニンキナーゼドメインとPDZ結合ドメインを有する。そこで、CRISPR/Cas9法により、キナーゼ活性を喪失したK64A/K65A変異株およびPDZ結合ドメインを欠失したΔETDV変異株を樹立する。これらの細胞株を免疫不全マウスに移植し、造腫瘍性の解析を行う。また、in vitroにおいても増殖シグナル伝達経路であるRAS-MAPKやJAK-STAT経路の活性化にどのような影響を及ぼすのかをウエスタンブロット法などで解析する。 さらに、PBKが抗骨髄腫薬への薬剤感受性に与える影響を解析し、PBK発現による骨髄種ゲノム医療への応用の可能性を検証していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担研究者の異動に伴い、研究計画の進行に軽微な遅れが生じたことや当初予想していた費用を民間の助成金により補うことができたことから、次年度使用額が生じた。現在、研究分担者は、本研究を滞りなく遂行できる状況にあることから、2019年度は研究計画どおりに資金を使用できるものと考える。初年度に得られた研究成果をもとに、本年度はオープンアクセスジャーナルへの論文投稿を含めて、各種メディアへの研究成果の発信を予定しており、それらの費用(校閲費、オープンアクセス投稿費、謝金など)に予算を充当する予定である。
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