研究課題
ヒト癌細胞株を使用し、フェロトーシス誘導物質および抑制物質の各細胞株に対する影響の検討から開始した。HepG2、Hep3B、HuH-7(肝癌由来)およびHL60(白血病由来)を培養し、erastinを0-50 μM添加した。顕微鏡観察では、Hep3BおよびHepG2細胞が増殖抑制を受けたが、総蛋白レベル測定ではHep3B細胞のみが10 μM以上のerastinで障害を受けただけとなり、正確な定量性にも問題が残った。このため、検出感度が優れる簡便なフェロトーシス検出方法を模索した。AlamarBlue染色を検討したところ、Hep3BおよびHuH-7細胞で10 μM以上のerastinが細胞のviabilityを抑制し、24時間培養でその効果を確認できた。次にHep3B細胞に、erastin 10 μM、desferrioxamine (DFO) 100 μM添加し培養した。100 μM DFOはerastinによるフェロトーシス誘導を打消したが完全ではなく、DFO自体が細胞増殖へ影響する可能性も示唆された。次に、erastin 1-10 μM、ferric ammonium citrate (FAC) 1-100 μM、トランスフェリンtransferrin (Tf)50 μM、DFO 100 or 500 μMを組み合わせ検討した。実験間でerastin効果のバラつきが大きく、cell viabilityが日によって異なったが、FACはerastinによるフェロトーシスを増強させる結果も得られている。さらに、Hep3B細胞に対しDFO 100 μMを添加し細胞を鉄欠乏状態としておき、erastin 1 μM、Tf 50 μM、FAC 1-100 μMを加え検討したが、DFO添加のみで細胞viabilityが有意に低下してしまい、目的の検討が十分にできず条件設定を進めている。
3: やや遅れている
平成30年度は、各種癌細胞由来培養細胞を用い、フェロトーシス誘導および抑制物質を使用しながら、細胞培養液中の鉄濃度を変化させた際の検討の基盤情報収集を行った。当初予定の細胞数や総蛋白量での検討では検出感度が低く、時間も予想以上にかかることが判明し問題が生じた。しかし、その後模索したAlamarBlue染色での解析が簡便かつ感度良く使用可能と判明し問題を回避できた。特に肝癌細胞株でフェロトーシス誘導物質erastinは本研究に十分使用できる効果を常に示し、必要な濃度などの情報も得られたが、一方で抑制物質とされるferrostatinは十分にerastinによるフェロトーシス誘導をcancellationできず、さらなる条件設定や他のフェロトーシス抑制物質での検討も必要となっている。鉄負荷下での検討では当初の予想のように、トランスフェリン結合鉄よりもNTBIがフェロトーシスを増強する結果を得ているが、特にNTBI濃度の測定を含めたさらに詳細な検討が必要と考えている。また、肝癌細胞株以外の複数の培養細胞株での検討も実施しているが、特に膵癌由来細胞株でerastinによるフェロトーシス誘導を認めており、そうした細胞株での同様の検証を進めていく必要性も考えている。当初の予定では、細胞を鉄キレート剤で鉄欠乏に傾けておき、そこに鉄とフェロトーシス誘導物質を加えると、強くフェロトーシス誘導が起こると予想していたが、DFOが予想以上に細胞に毒性を示す結果となり、今後DFO濃度もさらに条件設定を行っていく必要が生じている。いずれの実験も、実験間で細胞viabilityや各種試薬に対する反応の変化が予想以上に強く、試薬濃度の設定が非常に難しく時間がかかったが、仮説の証明に向け必要な解析の実験方法・条件は概ね確認してきている。研究全体としては少し遅れ気味ではあるものの、進行はしていると考えている。
平成30年度の検討では、ヒト肝癌細胞由来株におけるフェロトーシス解析の実験的基盤を確認したが、肝癌細胞株において、特にFACを低用量で培養液に加えた際にerastinによるフェロトーシス誘導が増強される点に注目し、培養液中のトランスフェリン量・トランスフェリン結合鉄量・NTBI量の細かな調整による検討を続ける予定である。また、膵癌細胞株など他の癌細胞株においても、erastinによるフェロトーシス誘導が確認されており、これらでも同様の検討を追加したい。さらに、鉄負荷によって各細胞内での鉄濃度を、原子吸光法による鉄量測定や、Fe2+-highly sensitive fluorescent probe (RhoNox-1) を用いた評価を行う予定である。鉄によるフェロトーシスの変化の評価には、電子顕微鏡も使用し、ミトコンドリアの濃縮、ミトコンドリア外膜の破壊、クリスタの消失など特徴的所見の観察を行っていく。また、Western blotting(cleaved caspase, PARP1など)、TUNEL assay(Promega: DeadEnd TUNEL system)も行い、鉄負荷による細胞障害増強がアポトーシスやネクローシスなどではないかの確認も行っていく予定で考えている。鉄負荷によるフェロトーシスによる変化が確実となった際には、さらに細胞内鉄代謝関連分子・遺伝子(TfR1およびTfR2、フェリチンHおよびL鎖、ヘプシジン、ferroportin、DMT1など)、がん関連遺伝子(KRAS、p53など)、細胞内酸化ストレス関連遺伝子(Glutathione peroxidase 4 (GPx4)、slc7a11)の発現の検討をreal-time PCRやwestern blottingを用いて、細胞内での動きも検討することを考えている。
(理由)平成30年度は肝癌細胞株を主体とした多くの癌細胞由来株を用いて、erastinによるフェロトーシス誘導効果などの実験条件の設定の検討を行ったが、施行したいずれの実験でも、実験毎に細胞のviabilityや、erastinおよびフェロトーシス抑制物質ferrostatinなどの各種試薬に対するresponseの違いが予想以上に強く、条件設定で予想以上の時間を要した。フェロトーシスのスクリーニングには当初費用がかかる予定であったが、本研究の過程で安価なスクリーニング方法での検討が可能と判断したことにより、結果として本年度は予想より経費が抑えられた。また、スクリーニングで時間を要したため、その後予定していた原子吸光法による鉄量測定やFe2+-highly sensitive fluorescent probe (RhoNox-1) 、電子顕微鏡などを用いた評価まで施行できず、この点でも経費が予想したようにかからなかった。これらの理由で、申請した額に対して残額が生じた。(使用計画)平成30年度の残金228,288円は、平成31年度の研究継続のための物品費の一部として使用したい。平成31年度からは分担研究者も増やし、解析をさらに進める予定であり、特に電子顕微鏡やRT-PCRやウエスタンブロットに必要な物品に当てることで、詳細な解析が可能となると考えている。
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