研究課題/領域番号 |
18K08347
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
生田 克哉 旭川医科大学, 医学部, 客員教授 (00396376)
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研究分担者 |
田中 宏樹 旭川医科大学, 医学部, 助教 (70596155)
土岐 康通 旭川医科大学, 医学部, 特任助教 (90596280)
齋藤 豪志 旭川医科大学, 大学病院, 医員 (80837930)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フェロトーシス / 抗腫瘍効果 / 非トランスフェリン結合鉄 / 鉄 |
研究実績の概要 |
平成30年度の結果を踏まえ、令和元年度はヒト肝癌細胞株であるHepG2やHep3Bを中心として検討を行った。HepG2においては、erastin 5-7.5 μM以上で著明な細胞増殖抑制が観察されたが、一方で同じHep3B、HuH-7では1 μM以上で細胞増殖が抑制されており、細胞株によって至適濃度が異なる結果であった。膵癌細胞株MIAPACaおよびPanc1細胞でも検討したところ、MIAPACaでは10 μM、Panc1では5 μM以上で著明な細胞増殖抑制が確認された。 次に、どの程度の鉄を細胞培養液に加えると細胞内鉄濃度が上昇するかを検証した。FerroOrangeを用い、plate readerでOD561/570-620 nmで検討したが、backgroundの影響が排除できなかった。そこで、HepG2およびHuh-7を用いて、FerroOrange添加後に蛍光顕微鏡での観察を行ったところ、どちらの細胞においてもferric ammonium citrate (FAC) 10 μM以上で細胞内鉄濃度上昇を確認できた。一方、holo-transferrinとして加えた場合には、100-300μM以上の高濃度の場合に細胞内鉄濃度上昇が確認された。自由鉄の形態で加えた場合に、効率的に細胞内鉄濃度上昇が起こっている事が確認されたと同時に、FAC 10 μM程度の鉄添加でerastinの細胞増殖抑制効果が増強されるかどうかの検討を行うべきとする条件設定の根拠が得られたと考えている。 細胞培養液に加えた鉄が細胞に十分吸収され細胞内鉄濃度が上昇するために時間が必要な可能性を考え、続いて、24時間前に細胞培養液に鉄を添加してからerastinを加えた場合と、erastinと同時に鉄を加えた場合で、細胞増殖抑制効果を検討したが、事前に鉄を加えることによる効果は明確には示されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度はAlamarBlue染色にてフェロトーシス誘導物質を使用しながら、細胞培養液中の鉄濃度を変化させた際のフェロトーシス発現変化の検討を繰り返し行った。培養細胞株の種類やviabilityによって同じ濃度のerastinでも効果が異なる事が多く、安定した再現性ある結果が得にくく問題が生じた。回避は難しいが、HepG2、Hep3B細胞などが比較的実験間のバラつきが少ないことが確認でき、現在これらを中心に研究を進めている。 令和元年度は、細胞培養液への鉄添加での細胞内鉄濃度上昇の確認も行った。FerroOrangeと呼ばれる細胞内Fe2+検出試薬を用い、トランスフェリン結合鉄よりも低濃度のFAC添加の方が効率的に細胞内鉄濃度の上昇をきたすことを確認した。また、FAC 10 μMで蛍光顕微鏡で確認可能となることも確認でき、鉄濃度側の条件設定ができたことになる。 本研究課題とは別に、我々は血液中の非トランスフェリン結合鉄(non-transferrin-bound iron: NTBI)が有する酸化力であるlabile plasma iron (LPI)測定系の構築を進めてきたが、これを完成させ令和元年度に報告した。以前構築したNTBI量測定系を共に活用する事で、培養液中の鉄に関して細かな条件設定・モニタリングをしながら解析できるので、非常に独創的な研究成果を生み出す基盤が整ったと言え、本研究課題進行の面においても大きな成果と言えるものである。 肝癌細胞株以外も特に膵癌由来細胞株でerastinによるフェロトーシス誘導が認められており、これらでも同様の検証を進めている。 実験結果が安定せず、特に使用する試薬の濃度設定が非常に難しく、今後の研究でも適宜修正が必要だが、仮説の証明に向け必要な解析の実験方法・条件は概ね確立してきた。やや遅れ気味ではあるが進行はしていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討から、本検討課題のフェロトーシス解析において、培養細胞としてはヒト肝癌細胞株もしくはヒト膵癌細胞株が有用であり、フェロトーシス誘導物質としてはerastinが十分に実験的に使用可能なことを確認し、研究の基盤を構築した。さらに、肝癌細胞株において、特にFACを低用量で培養液に加えた際に実際に細胞内鉄濃度が増加することも確認し、鉄濃度設定の実験的基盤も確立できている。今後は培養液に鉄を加えることでのerastinによる細胞増殖抑制効果への影響をさらに詳細に確認するが、特に、非トランスフェリン結合鉄(non-transferrin-bound iron: NTBI)量や、我々がさらに新規で確立した測定系を用いてlabile plasma iron (LPI)測定も同時に行い、細かな検討を続ける予定である。 鉄によるフェロトーシスの変化の評価には、電子顕微鏡も使用し、ミトコンドリアの濃縮、ミトコンドリア外膜の破壊、クリスタの消失など特徴的所見の観察を行っていく。また、Western blotting(cleaved caspase, PARP1など)、TUNEL assay(Promega: DeadEnd TUNEL system)も行い、鉄負荷による細胞障害増強がアポトーシスやネクローシスではなく明らかにフェロトーシスであることの確認も行っていく予定で考えている。 さらに、細胞内鉄代謝関連分子・遺伝子(TfR1およびTfR2、フェリチンHおよびL鎖、ヘプシジン、ferroportin、DMT1など)、がん関連遺伝子(KRAS、p53など)、細胞内酸化ストレス関連遺伝子(Glutathione peroxidase 4 (GPx4)、slc7a11)の発現の検討をreal-time PCRやwestern blottingを用いて検討することも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 令和元年度は、肝癌細胞株や膵癌細胞株を主体とした培養細胞株を用いて、erastinによるフェロトーシス誘導効果および培養液中に鉄を加えることでの増強に関して検討を繰り返し行ったが、検出方法として選択したAlamarBlue染色は比較的安価で実施でき、細胞内鉄量測定に使用したFerroOrangeも実施回数が多くならずに結果を得られたため、経費が予想した額まではかからず、申請した額に対して僅かだが残額が生じた。 (使用計画) 令和元年度の残金46,878円は、令和2年度の研究継続のための物品費の一部として使用したい。令和2年度は最終年度となり、電子顕微鏡、RT-PCR、ウエスタンブロットでの検討も予定しており、これらに必要な物品に当てることで、詳細な解析が可能となると考えている。
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