研究課題
加齢に伴う造血幹細胞(HSC)の変化について、PRC2 の活性が低下することに伴い、H3K27me3修飾が減少することが示唆されたため、PRC2のメチル化修飾活性を持つ Ezh2 の活性を負に制御する21番目のセリンのリン酸化(S21リン酸化)について検証を行なった結果、老齢 HSC ではS21リン酸化が顕著に増加していることが示された。一方で、Ezh2 のタンパク量に変化は見られなかった。また、S21のリン酸化酵素Akt の活性化型であるリン酸化Akt の量が、老齢 HSC で顕著に増加していた。これらの変化は、より分化した造血前駆細胞では見られなかった。また、老齢 HSC を若齢マウスに移植し、その変化について検証を行なったところ、移植後の老齢 HSC において、S21リン酸化は減少し、リン酸化Akt の量の減少も見られた。この結果から、Akt による Ezh2 のリン酸化はニッチ依存的に可逆的に変化する事が示された。次に、 若齢および老齢のHSC、造血前駆細胞を用いたATAC-seq により、網羅的なオープンクロマチン領域の変化について解析を行った。その結果、加齢に伴いHSC 特異的に開く領域に、Nrf2 結合配列が濃縮される事が明らかになった。そこで、 Nrf2 のタンパク量を免疫染色により調べたところ、老齢 HSC において有意に増加している事が示された事から、何らかのシグナルによりNrf2が安定化し、 Nrf2/Keap1 経路が活性化している事が示された。今後、Ezh2 S21A、S21D 変異体によるHSC の影響や、Keap1 KO による恒常的 Nrf2活性化状態におけるHSC の変化について検証を行う。
2: おおむね順調に進展している
加齢に伴う造血幹細胞の変化について、これまでに得られている結果を裏付け、更にその分子機構に関わる興味深い知見が蓄積し、一部計画と異なるところがあるが、発展させていく中で当初の疑問を明らかにし、更に新たな知見が得られる事が予想される。
当初の計画を推進するとともに、ATAC-seq によりこれまでに報告のない様々な変化についての情報が得られたことから、これらの結果も合わせて解析していく事で、加齢に伴う造血幹細胞の変化についての包括的な理解が得られるよう研究を進めていく。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件)
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