骨髄異形成症候群で汎用されるDNAメチル化阻害薬、アザシチジン(Aza)が、MDSの貧血を改善するメカニズムを明らかにする目的で、K562細胞株にAza-dCを処理する赤血球分化を誘導する実験系を中心とした検討を進めた。Aza-dC処理したK562細胞を次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析とメチル化解析(MeDIP-seq)を行い、Aza-dCの脱メチル化標的遺伝子の探索を行ったところ、その候補として蛋白合成を促進する翻訳伸長因であるeEF1A2を単離した。eEF1A2はAza-dC刺激によりプロモーター領域がほぼ完全に脱メチル化され、mRNAとタンパク発現が優位に増加していた。また、Aza-dCにより翻訳開始因子であるeIF2αが脱リン酸化され活性化することを明らかにした。さらに、Aza-dCを処理したK562細胞では、ヘム合成酵素であるALAS2のmRNAとタンパク発現が突出して亢進していたことから、ALAS2の上流因子である翻訳効率抑制因子IRP2やE2 LigaseであるFBXL5が動いていると推測し、検討を進めた。それに加えて、Azaによるクロマチン領域の解析と新規関連因子を同定するため、Aza-dC処理したK562細胞でATAC (Assay for Transposase-Accesible Chromatin)-seqを行い、Aza-dC処理により変動するオープンクロマチン領域の同定と、変動したオープンクロマチン領域内の転写因子等の候補遺伝子の抽出を試みた。ATAC-seqの結果と、これまでに行ったAza-dC処理したK562細胞のRNA-seq発現データ解析と照らし合わせ、特に翻訳関連因子を中心にAza-dCで重要な役割を果たす因子を中心に解析を進めた結果、いくつかの候補遺伝子の抽出に成功した。
|