研究課題
近年、老化細胞を排除することにより、加齢による低下した臓器機能を回復させることが報告されている。骨髄増殖性腫瘍に認められる特徴的な遺伝子変異は、癌遺伝子誘発性細胞老化を誘発し、細胞老化関連分泌現象による慢性炎症状態から造血幹細胞や造血微小環境に影響を与え、その病態形成に深く関与していると考えられる。そこで臨床検体を用いて老化指標マーカー、細胞老化関連分泌現象について解析し、老化細胞を標的としたsenolytic drugs(老化細胞除去薬)による新規治療法の開発を行う。骨髄増殖性腫瘍は慢性的に進行する悪性疾患であり、かつ脳・心血管イベントの発症リスクの高い疾患でもある。近年、健常人の加齢に伴うクローン性造血は造血器腫瘍リスクと全死因死亡率の上昇に関連していること (NEJM 371:2488-98,2014)、さらに心血管疾患リスクの上昇に寄与していることが報告された(N Engl J Med 377, 111-21, 2017)。クローン性造血のうち、DNMT3A, TET2, ASXL1などのエピジェネティック制御因子以外にも、MPNsに高頻度に認められるJAK2変異も高率に認められた。MPNsは血栓症のリスクが高く、一般的に抗血小板・抗血栓療法が行われている。さらにMPNsは比較的高齢者に発症し、経過は緩やかであるが進行性である。二次性骨髄線維化や形質転換し急性白血病化すると極めて予後不良である。我々は骨髄増殖性腫瘍患者の臨床検体を用いて経時的に変化する遺伝子異常を次世代シークエンサーにより解析し、上記のクローン性造血に関連する遺伝子変異を複数同定した。この変異をより簡便な方法により同定することで、予後予測につながる研究に着手している。
2: おおむね順調に進展している
骨髄増殖性腫瘍患者の臨床検体を用い経時的に変化する遺伝子異常を次世代シークエンサーにより解析したところ幾つかの遺伝子変異を同定した。この変異をより簡便な検出法を確立すべく検討中である。また細胞老化に関与するテロメア合成酵素であるテロメラーゼの構成成分TERTの一塩基多型が骨髄増殖性腫瘍の発症リスクに関連することをInternational Journal of Hematology誌に報告した(Matsuguma M. et. al Int J Hematol.110:690-698,2019)。
非ドライバー変異である遺伝子変異をより簡便な方法により同定する方法を開発するとともに、基礎的実験として老化細胞を除去する薬剤のスクリーニングや効果的な投与法を検討し新規治療法の開発を進めていく予定である。
2020年2,3月に予定されていた学術集会が新型コロナウイルス感染拡大のためキャンセルになったため参加できず旅費は次年度に持ち越しとなった。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (4件)
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