研究課題/領域番号 |
18K08359
|
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
門脇 則光 香川大学, 医学部, 教授 (60324620)
|
研究分担者 |
桑原 知巳 香川大学, 医学部, 教授 (60263810)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ウイルス療法 / 腸内細菌叢 / 免疫療法 |
研究実績の概要 |
正常免疫能をもつマウスを用いてがんウイルス療法の実験をする必要があるので、遺伝子組換え単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)であるT-01が感染し殺細胞効果を示すマウス腫瘍細胞株を探したが、適当な細胞株は見当たらなかった。そこで、HSV-1のエントリーに必要なレセプターであるhuman nectin-1をマウス細胞株に遺伝子導入したところ、C57BL/6マウス由来メラノーマ細胞株B16に卵白アルブミン(OVA)遺伝子を導入したB16-OVAがT-01によって効率的に殺傷されることを見いだした。 このB16-OVA-nectin-1をC57BL/6マウスの背部左右に1か所ずつ皮下接種して作製した皮下腫瘍の一方にT-01を腫瘍内投与する系で、3種類の抗菌薬(イミペネム、ネオマイシン、バンコマイシン)を投与し腸内細菌を除去するとウイルス療法の効果が影響を受けるかを調べた。すると、T-01を投与しなくても抗菌薬を経口投与しただけで、両側の皮下腫瘍の増大速度が低下した。また、T-01非投与側の腫瘍の増大速度が抗菌薬投与により低下した。したがって、何らかの腸内細菌が抗腫瘍免疫反応を抑え、これを抗菌薬で除去すると抗腫瘍免疫が高まり、免疫を介したT-01の抗腫瘍効果が高まることが示唆される。これは、特定の腸内細菌が抗腫瘍免疫反応を増強するという既報とは異なる結果である。 さらに、イミペネム、ネオマイシン、バンコマイシンを単独投与し、どの抗菌薬の投与により皮下腫瘍の増大速度が低下するかを調べたところ、イミペネムの投与では腫瘍の増大速度は影響を受けなかったが、バンコマイシンを投与すると腫瘍の増大速度が低下した。ネオマイシンでの結果は一定しなかった。したがって、バンコマイシン感受性の細菌が抗腫瘍免疫を抑えることが示唆される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正常免疫能をもつマウスを用いた実験を行うための遺伝子導入マウス腫瘍細胞株を作製し、これに対するウイルス療法の効果に複数の抗菌薬の組み合わせが影響を及ぼすこと、さらに具体的にどの抗菌薬が影響を及ぼすかを突き止めたことは、今後本研究を進めるうえでの基盤的データを得たことを意味する。また、既報では腸内細菌を広域抗菌薬で除去すると抗腫瘍免疫反応が低下したことから、免疫療法の効果を強める細菌を同定する研究が進んでいるが、本研究では逆の結果、つまり腸内細菌が免疫療法の効果を弱めることを示唆する所見が得られたことから、本研究が、免疫療法に対する腸内細菌叢の影響を考える上で新たな方向性を開拓することが期待できる。以上より、本研究は順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
バンコマイシンはグラム陽性球菌に効果があることから、何らかのグラム陽性球菌がウイルス療法における抗腫瘍免疫効果を抑える可能性がある。まず、イミペネムを投与したマウスの糞便をバンコマイシン投与マウスに移植することにより、バンコマイシン投与による腫瘍抑制効果がキャンセルされるかどうかを調べる。これにより、イミペネムが効かなくてバンコマイシンが効き、抗腫瘍免疫を抑える作用のある腸内細菌が存在することを確かめる。次に、イミペネム投与マウスとバンコマイシン投与マウスの糞便中細菌叢の網羅的なメタゲノム解析により、抗腫瘍免疫を抑える具体的な細菌を同定する。さらに、3種類の抗菌薬(イミペネム、ネオマイシン、バンコマイシン)を投与したマウスにその細菌を投与すると腫瘍の増大が促進されるかどうかを調べ、その細菌(Aとする)が抗腫瘍免疫を抑えることを確定する。 次に、この免疫抑制機序を明らかにするために、細菌Aを投与したマウスの脾臓、腸管壁の免疫細胞(樹状細胞、T細胞、骨髄系免疫抑制細胞)の数や分画(樹状細胞分画や制御性T細胞)を調べ、免疫抑制をもたらす細胞が増えていないかを調べる。また、MyD88, TLR9, TLR4のノックアウトマウスを用いて同様の実験をすることにより、細菌Aから自然免疫系に送られるどのようなシグナルが免疫抑制をもたらすかを調べる。 希少糖(D-タガトース、D-アルロース、D-アロース)が腸内細菌叢に及ぼす影響を、これらの糖を経口投与したマウスの糞便中細菌叢の網羅的なメタゲノム解析により調べる。これにより、希少糖による腸内細菌叢の制御がウイルス療法の抗腫瘍効果に影響を及ぼしそうかどうかの目安をつける。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本予算で実験を始める前に他の助成金で購入した試薬類があり、これを本研究でもある程度使用できたことから次年度使用額が生じた。平成31年度は細菌叢の網羅的なメタゲノム解析を複数行うことにより多額の研究費が要るため、次年度使用額をそれに充てる。
|