研究課題
我々は血小板減少症と動静脈血栓症が併発して発症している一大家系を見出し、その原因遺伝子異常としてG蛋白共役型受容体の一つであるGPR25の点突然変異を見出した。この遺伝子異常を導入したトランスジェニックマウスを作成したところ、一部のマウスでは血小板減少がみられたものの正常なマウスもあり、個体差があった。トランスゲニックマウスでの発現効率のばらつきが関与している可能性が考えられたが、これらのマウスについてすべての臓器の組織学的検討を行ったところ、明らかな異常は今のところ見つかっていない。そこで、この遺伝子を欠損したノックアウトマウスの作成を試みた。その結果、ノックアウトマウスの妊孕性は明らかに低下していたことから、GPR25の欠損は胎生致死もしくは妊孕性の低下につがることが考えられた。そこで胎児マウスの組織学的検討を行う予定である。次に、抗ヒトGPR25モノクローナル抗体を作成して、これを標識マーカーに使うことにより、GPR25が血小板表面に存在していることを確認した。GPR25モノクローナル抗体の報告はこれまでになく、我々が作成した抗体が唯一の抗体と考えられた。この抗体は血小板機能を阻害あるいは亢進することはなかった。一方、患者血小板は血小板凝集能が亢進しており、また患者血小板の凝集は一つの大きな塊を形成し、強固な凝集塊が形成されていた。さらに血小板表面へのリン脂質(アネキシンV)の露出が有意に増加していて血小板表面の凝固能が亢進していると考えられた。これらのことから、血小板表面に発現しているGPR25は血小板凝集を強固にし、血小板表面での凝固反応を促進させる作用があることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
GPR25ノックアウトマウスの作成を試みたが、残念ながら胎生致死になることがわかり、ノックインマウスの作成が困難となっている。しかし、in vitroでの解析は順調に進んでおり、抗GPR25モノクローナル抗体の作成にも成功して、解析を続けている。さらに、患者血小板の解析では血小板凝集能および凝固促進の機序の一端が明らかとなり、それらについてさらに解析を続けている。
患者血小板の機能について凝固活性亢進の観点からの検査を行っていく。具体的にはアネキシンVの発現に加えて、トロンビン産生能やscramblase活性をみていく。また、GPR25の生理的意義を確立するためにノックアウトマウスの胎生致死の原因を突き止める必要があり、胎生期での解剖学的、組織学的検討を行っていく。さらに、我々が作成した抗GPR25モノクローナル抗体を用いて、血小板減少患者のスクリーニングを行い、GPR25の発現量を検討していく予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件)
International Journal of Hematology
巻: 111 ページ: 329-351
10.1007/s12185-019-02790-z
Blood Coagulation and Fibrinolysis
巻: 30 ページ: 47-51
10.1097/MBC.0000000000000785.
臨床血液
巻: 60 ページ: 877-896