研究実績の概要 |
正常な止血プロセスには骨髄造血幹細胞(HSC)より分化する巨核球(Mk)から血小板が適切に生成されることが必要である。当研究は、骨髄ニッチにより産生されるcytokine, Thrombopoietin(Thpo)とそのmitochondria代謝の活性能に着目し、mitochondria代謝の制御を介したHSC制御を解析することが目的である。これまで、Thpo刺激・非刺激HSC、およびThpo遺伝子欠損マウスから分離したHSCを解析してきた。TPO遺伝子欠損マウスの解析を行い、Thpo欠損下において、HSCの数の減少、静止期破綻が認められ、HSCのMitochondria体積が低下し、ATP産生能も低下することを認めた。しかしながら、Thpo遺伝子欠損マウスより分離培養したHSCを競合的的骨髄移植したところ、正常な骨髄再構築能を示した。これらのことはThpo欠損による造血幹細胞障害が可逆的であることを示唆していた。昨年度はThpo受容体アゴニストをThpo遺伝子欠損マウスに投与し、その長期的な作用を検討した。その結果、Thpo受容体アゴニストはThpo遺伝子欠損マウスにおいて、HSCの静止性を誘導した。一方、野生型マウスにおいて、Thpo受容体アゴニストはHSCの増殖性を誘導した。競合的骨髄移植において、Thpoシグナルを長期的に与えたThpo遺伝子欠損マウス由来のHSCは野生型マウスの造血幹細胞帆と比較し、優位に高い造血再構築能を示した。また、Thpo遺伝子欠損マウスと野生型マウスのHSCのRNAシークエンス解析を行い、Thpo遺伝子欠損マウス由来のHSCはミトコンドリア代謝を含めた広範囲の代謝関連遺伝子の発現差が認めれら、これらの遺伝子発現パターンはThpoアゴニストの投与において正常化する傾向を認めた。これらの結果の一部論文として、Blood誌2021に報告した。
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