研究課題/領域番号 |
18K08365
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
池田 和彦 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (90381392)
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研究分担者 |
大河原 浩 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (10381360)
橋本 優子 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (60305357)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | CALR変異 / ポリコーム抑制複合体 |
研究実績の概要 |
本研究は骨髄増殖性腫瘍(MPN)におけるドライバー変異とヒストン修飾因子の異常が協調的に作用して病態が進展していく機序を明らかにするものである。 CALRのexon 9変異は骨髄増殖性腫瘍(MPN)におけるドライバー変異としてJAK2変異に次いで高頻度にみられる。我々はゲノム編集法を行い、マウスCalr exon 9にMPN症例と同様の変異を導入したCalr ins2マウス (2塩基挿入) およびdel10マウス (10塩基欠失) のノックイン(KI)マウスを作出できた。Ins2マウスは脾腫・髄外造血を、del10マウスでは白血球増加・血小板数増加・髄外造血を呈し、それぞれがMPN造血を反映した。従来CALR変異マウスはヒトCALRを変異させたものを人為的に導入したモデルがほとんどであり、マウスCalrを変異させたモデルにおいてMPN様の造血を示せたことは意義深い。 これらKIマウスをドナーとして骨髄移植を行ったところ、ins2マウスでは高度、del10マウスでは軽度の造血再構築能低下を認めた。造血幹細胞を採取し網羅的に遺伝子発現を解析したところ、両マウスで共通して発現が変動した遺伝子が過半数を占め、JAK-STAT系の亢進とヒストン修飾因子として重要なポリコーム抑制複合体2(PRC2)の標的遺伝子の発現低下が共通した特徴として認められた。 JAK-STAT系の亢進はMPN様造血を反映していると考えられた。一方、PRC2の標的の発現が低下していることは、造血再構築能の低下に寄与している可能性がある。今後、PRC2の重要な構成因子であるEzh2のノックアウトモデルを用い、PRC2の標的が低下しない状況下においてCalr変異細胞の造血再構築能が回復するか、病態が進展するか観察する。これにより、MPNの病態が進展していく機序の一端を明らかにすることができると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、CRISPR/Cas9によるゲノム編集法を用いて、マウスCalrのexon 9にMPN症例と同様のフレームシフトを導入した、2種類のノックインマウスの作出に成功した。これらのノックインマウスについて造血を詳細に解析したところ、ins2マウスにおいては脾腫、脾臓への巨核球の集族を、del10マウスでは白血球数および血小板数の増加や脾臓への巨核球の集族を認め、それぞれMPNの造血を反映していた。骨髄移植による競合的造血再構築法では、野生型マウスと比較して、ins2マウスでは造血幹細胞の造血再構築能が著明に低下し、del10マウスにおいてもやや低下していた。これらCalr変異ノックインマウスの造血幹細胞は遺伝子発現を網羅的に解析し、MPN様の造血と造血幹細胞再構築能低下がそれぞれJAK-STAT系とヒストン修飾因子のポリコーム抑制複合体経路の亢進によるものであることが示唆された。 これらの知見について、American Society of Hematology (2019年12月、フロリダ州オーランド) において発表した。現在、JAK-STAT系およびポリコーム抑制複合体の経路についてタンパクレベルの検証を行い、論文を準備している。 今後はさらに、ノックインマウスにEzh2を欠失させる検討を準備しているところである。我々は既にEzh2コンディショナルノックアウトマウスを保有している。
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今後の研究の推進方策 |
我々は今後、JAK2V617Fトランスジェニックマウスで観察されたEzh2欠失に伴うHmga2発現 (Blood Adv, 2017) 等病態の進展を促す因子の亢進がCalr変異下でも認められるか、といった造血に及ぼす影響を明らかにしたいと考えている。また、MPNの症例においてはJAK2変異例と CALR変異例で予後が異なっていることから、JAK2変異とCalr変異が造血に及ぼす影響の相異についても解析したいと考えている。 このため、Calr変異ノックインマウスと、Hmga2トランスジェニックマウス (Ikeda et al, Blood, 2011) やEzh2コンディショナルノックアウトマウスを交配し てCalr変異ノックインHmga2トランスジェニックマウスや、Calr変異ノックインEzh2コンディショナルノックアウトマウスを作成し、造血を解析する予定であ る。また、JAK2V617FトランスジェニックマウスとCalr変異ノックインマウスについては、それらの造血細胞について差異を明らかにするべく、解析を進めていく。解析においては、遺伝子や蛋白の発現様式、JAK阻害剤に対する感受性を初めとする、様々な検討を予定している。 以上により、MPNが骨髄線維症を起こし、さらに急性白血病へと進展していく機序の一端を明らかにすることができると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の支出が全体に少なかった。旅費については、学会の中止などもあり、支出が無かった。 次年度において、RNA sequenceおよびChIP sequence、複数の国際学会における発表など、比較的高額な支出を予定している。また、マウスの飼育数も増やす予定である。
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