研究課題/領域番号 |
18K08367
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
古林 勉 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00624793)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多発性骨髄腫 / クローン進展 / SGO1 / BUB1 / 染色体分配異常 |
研究実績の概要 |
B細胞性リンパ腫(BCL)や多発性骨髄腫(MM)などのリンパ系腫瘍における難治病態形成に際する共通の現象として、染色体・ゲノム不安定性に伴うクローン性進化が挙げられる。しかしながら、その分子メカニズムは不明点が多く、その克服戦略も皆無である。そこで、本研究では、染色体分配制御分子であるSGO1、ならびに関連分子の発現や制御異常に焦点をあて、高悪性度BCLと不治の疾患であるMMの染色体・ゲノム不安定性獲得のプロセスにおける機能的意義について明らかにすることで「クローン性進展」の分子メカニズムの解明と新規制御戦略の開発を目指した研究を進めている。平成30年度には、MM細胞株、BCL細胞株、患者由来腫瘍細胞のSGO1、ならびに関連分子の発現状態も検討から、MMの腫瘍細胞において発生母地である形質細胞と比べ、SGO1、ならびに染色体分配制御分子BUB1の発現上昇を認めることが定量的RTPCR、タンパクレベルでの解析で確認された。このことから、令和元年度はMMにおけるSGO1、ならびにBUB1の機能解析を進め、その制御異常の病態形成における意義と治療応用の可能性について解析を進めた。より具体的には、レンチウイルスベクターを用いてSGO1、もしくはBUB1の発現抑制細胞株亜株を作成し、細胞増殖能、コロニー形成能、染色体分配異常、抗ガン剤感受性について検討し、SGO1、ならびにBUB1についても機能解析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MM細胞株、BCL細胞株の10種ずつについて、SGO1, BUB1の発現状態を検討した結果、MM細胞株において発生母地である形質細胞と比べ、いずれも約8-50倍、SGO1、BUB1の発現上昇を認めることが定量的RTPCRにより明らかになり、タンパクレベルでも同様の結果が確認された。次にMM臨床検体計54検体でSGO1、BUB1発現を検討したところ、患者由来初代細胞でも病初期からこれらの発現が概ね3倍程度に亢進し、さらに病期進行に伴って、患者間でのばらつきはあるものの最大10倍程度まで発現上昇することが明らかになった。また、両分子の発現には正の相関が認められた。次にMMにおけるSGO1、BUB1の機能解析に焦点を当てることにした。具体的にはレンチウイルスベクターを用いて遺伝子発現抑制MM細胞株亜株を作成し、細胞増殖能、コロニー形成能、染色体分配異常、抗ガン剤感受性について検討を行ったところ、なかでもBUB1がMM細胞の分裂期染色体分配不均衡、染色体異常進展クローンの出現、コロニー形成能、紡錘体形成障害に対する耐性に関与することが特定された。くわえて、BUB1の発現がSGO-1発現のパターン、ならびにc-Myc活性にも影響を与えている可能性が示されつつあり、現在、解析を継続している。一方、BUB1発現、SGO1発現の程度と細胞増殖能、各種抗がん剤刺激などによるアポトーシス誘導能などには明確な関連が認められず、他の悪性腫瘍における諸家の既報とは異なる結果であった。これらの結果から、MMではBUB1発現亢進を認め、クローン性増殖能と染色体分配異常による染色体異常サブクローンの発生を同時に導くことで”karyotypic evolution”を促進する役割を果たしており、悪性形質転換の促進、治療抵抗性獲得クローンの出現を促進している可能性が高いことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
SGO1、BUB1の遺伝子発現抑制細胞株亜株を用い、引き続きBUB1によるSGO1の発現レベル、分子機能や細胞内局在の制御、c-Myc制御などを含め、細胞分裂期における染色体分配不均衡とクローン性増殖の同時促進によるクローン性進展のを司るエフェクター分子の特定、その制御メカニズムの解明をさらに継続する。また、現時点までBUB1過剰発現を導く分子メカニズムが同定できておらず、今後はその解明も同時に進める予定である。一方、これまでのSGO1、BUB1発現抑制実験では、これらの分子の発現抑制の程度は最大でも10%程度までの低減にとどまっている。重要なことに、一過性であっても双方の分子の発現が抑制された細胞は短期間で腫瘍細胞のみに細胞死を誘導しうる可能性が示される傍証が得られつつあり、これらの分子の相補的機能も示唆される。今後、これらの分子の治療標的としての妥当性の検証には、正常細胞におけるこれら分子の発現抑制に際する毒性を検討する必要がある。これらについても、引き続き検討を進める。
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