研究課題
本研究では細胞分裂チェックポイント分子BUB1、SGO1の骨髄腫(MM)細胞、B細胞性リンパ腫(BCL)細胞における過剰発現を見出した。MM患者由来細胞における検討では、病初期からこれらの発現が亢進し、さらに病期進行に伴って発現上昇することがわかり、両分子の発現には正の相関が認められた。これらのことから、BUB1、SGO1過剰発現が病態悪化のサロゲートマーカーとなることが示され、同時にその誘因となる可能性が示唆された。次に、MM細胞やBCL細胞において、BUB1発現抑制は、分裂期染色体分配不均衡の是正、染色体異常進展クローンの出現の抑止、コロニー形成能の低下、紡錘体形成障害への高感受性獲得をもたらした。以上より、MMではBUB1発現亢進を認め、クローン性増殖能と染色体分配異常による染色体異常サブクローンの発生を同時に導くことで”karyotypic evolution”を促進する役割を果たしており、悪性形質転換の促進、治療抵抗性獲得クローンの出現を促進していることが明らかになった(Fujibayashi Y, Cancers 2021)。ただし、BUB1過剰発現のみでは新規の染色体異常を有するクローンの拡大にまでは至らず、さらに複数の分子異常の協調的関与が必要と考えられる。一方、SGO-1発現抑制による分裂期染色体分配不均衡、コロニー形成能への影響は複数の細胞株間で不均一であり、まったく影響を及ぼさないものから、効果はあってもBUB1発現抑制による程度に比べると有意に軽微であるものが殆どで、確定的な分子効果を証明するには至らなかった。従って、SGO-1過剰発現の機能的意義は未だ不明確である。本研究の結果から、BUB1の異常な発現亢進はMMやBCLにおいて染色体不安定性を亢進し、染色体進展を促進すること、多段階発がん過程の抑止を目指すうえでの治療標的と成り得ることが示された。
すべて 2020
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Cancers
巻: 12 ページ: 2206-2220
10.3390/cancers12082206.