研究課題/領域番号 |
18K08368
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
奥田 恵子 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70305572)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ABLファミリー遺伝子 / 白血病 / Mastcytosis / 発がんシグナル / 発がん制御 |
研究実績の概要 |
ABLファミリー遺伝子であるABL(ABL1)とARG(ABL2)は互いに約80%の相同性を有しているが、ABLが白血病原因として広く認知されているに対してARGの機能はまだよく理解されていない。非受容体型チロシンキナーゼである両者の機能解析には安定した活性化誘導が必須であるが、共に白血病患者より検出された転座融合遺伝子であるTEL/ABL, TEL/ARGでは、TEL側の切断点も同一部位で互いの遺伝子構造ならびに蛋白アミノ酸配列に非常に高い相同性を有し、恒常的にキナーゼ活性が亢進している。 私はTEL/ABLとTEL/ARGを互いの活性型相補対照モデルと捉えて比較・検討する事により両者の機能と白血病における役割の解析に従事してきた。 これまでに確認した両者の生物作用で、注目すべき2つの相違点は 1. 増殖因子依存性細胞株においてTEL/ABL は強い自己増殖作用を誘導するが、TEL/ARG の細胞への増殖作用は軽微である。 2. 生体モデルにおいてTEL/ABLマウスは急性骨髄性白血病を発症して早期死亡するが、TEL/ARGマウスでは長期経過後に特異的なMastcytosisを発症する。 細胞増殖作用については両融合遺伝子のC末端構造を相互置換した変異遺伝子を発現させたところ、その形質転換能はABL-C末の存在で亢進、ARG-C末の存在で減弱を認め、C末端がその責任領域である事を確認した。続いてARG-C末端領域をBox1~4の4領域に細分画削除した変異体では全長の増殖抑制作用はBox1領域の削除で顕著に消失しており、同所に細胞増殖を抑制する責任部位と未知の制御機構が存在している事が窺われた。以上の所見からARGには白血病発症を抑制する機構の存在が窺われた。さらにABL ARG の比較から白血病化の抑制や病態方向性の決定に関わる機構の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は実験材料の準備や実験方法・手技の立ち上げと習得に多くの時間を必要とした。実験材料ではキナーゼによる細胞増殖作用を抑制するARG遺伝子機能への関与が疑われるC末端Box1領域内の候補配列に対する変異体遺伝子、その内容としては一箇所のチロシン残基をフェニルアラニンに点変異 (Y568F)、4個のプロリンで3連続するPXXP配列のプロリンを全部と各単独または複数組み合わせでアラニンに点変異(P567A, P570A, P573A, P576A)、および一箇所のSSSS配列を部分削除したもので、この13種の変異体遺伝子を構築し、ベクター (pTRE, pGEX)に組み入れたプラスミドの作製を予定通り完了した。完成したプラスミドを用いては今後の蛋白pull down実験用に領域局所配列を有するGST融合蛋白を、現在精製中である。 また初めて実施するyeast two hybrid system(YTH)手法について予備実験で手技を習得した。条件設定の基礎実験を経て実施した当初のYTHスクリーニングでは、TEL/ARGに対して強陽性は5つと期待していたよりもかなり少なかったが、注目すべきはそのうち再現性よく結合したものの中にSTAT3の5’-UTRを含む全長cDNA を検出した。これはTEL/ABLでは認められなかった。またSTAT3結合はTEL/ARG のΔBox1 変異でも認めたがキナーゼ不活化変異体には認められなかったので、様式として自己リン酸化チロシン残基に STAT3 の SH2 を介した結合ではないかと疑っている。細胞内で直接両者内因性蛋白の結合はまだ証明できていないが、ウェスタンブロッティングにてSTAT3のリン酸化はTEL/ABLでは殆ど認められないに対してTEL/ARGでは確認でき、TEL/ARG特異的な結合との仮説と合致する所見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きyeast two hybrid system(YTH)を用いてARG またはABLとの特異的結合蛋白の検索スクリーニングを続行し、候補分子の網羅的解析と単離・同定を進める。殊に細胞増殖、造腫瘍活性に対して抑制作用が示唆される ARG Box1 領域と結合する蛋白の単離・同定を試みるが、その為には実施中のYTHと並行して前述のGST融合蛋白を作製してpull down 解析を開始する。 同時にARGに特異的なシグナル分子の有力な候補として転写因子である STAT3が単離できたので、早速STAT3に対してARGとの結合様式と機能への役割を検討する。前述の結果からTEL/ARG自己リン酸化部位へのSTAT3 SH2を介した結合を疑っており、その確認にはSTAT3のGST-SH2でTEL/ABL, TEL/ARGのpull downあるいはFar-Westerm, さらに発現細胞内因性蛋白での免疫沈降/ウェスタンブロッティングを実施する。 ARG 特異的結合の確認に続いてSTAT3 の結合部位を同定 :まず全長から大きく各ドメインを削除したcDNAでYTHを実施して責任局所領域を絞ってから、その領域内のチロシン残基を順次フェニルアラニンに置換して最終的にYTHにかからない部位を同定する。判明した結合部位を潰した変異体遺伝子は細胞株に導入して細胞内での結合の確認や生物学的作用の変化を観察する。 STAT3 はその結合部位からも造腫瘍活性よりはむしろ特異的なmastocytosis誘導に見られる病態の方向性に関与している可能性も疑っており、長期的には マウスモデル作製レトロウィルスを用いて骨髄細胞に感染導入し、感染骨髄を移植したマウスモデルを作成することにより生体での白血病化における影響や変化を検討する。
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