本研究では、多発性骨髄腫(MM)におけるセマフォリン3A(SEMA3A)とその受容体ニューロピリン1の相互作用の薬剤耐性メカニズムにおける意義を明らかにすることを目的とし、検討を継続して行ってきた。前年度までの解析では、MM細胞株を用いてin vitroでウェスタンブロットを中心とした検討を行ったが、ボルテゾミブの投与によりそれらの発現変動は認められなかったことから、本年度はSEMA3Aの骨髄微小環境側への作用から誘導される耐性メカニズムに着目し、解析を行った。 骨髄間質細胞株HS-27Aに対して低濃度ボルテゾミブを作用させたところ、ウェスタンブロット(WB)解析にてSEMA3A発現亢進が認められたことから、この分泌されたSEMA3Aにより骨髄間質細胞から骨芽細胞方向に形質誘導することで薬剤感受性にも影響を及ぼすと仮定した。SEMA3Aは骨髄間質細胞株に対しては緩やかな増殖促進効果を示したが、MM細胞株KMS-11と骨髄間質細胞株HS-5の共培養系に対しては、濃度依存性に増殖を抑制したことから、細胞間接着を介した増殖メカニズムを抑制しうる可能性が示唆された。 SEMA3Aの骨髄間質細胞から骨芽細胞への分化誘導効果を確かめるために長期培養系を確立し、骨芽細胞への分化はアリザリンレッド染色による石灰化の程度を判定することで評価したところ、SEMA3Aにより骨髄間質細胞の石灰化が誘導された。また、WB解析により、骨髄間質細胞から未熟骨芽細胞までの分化を促進する因子であるRUNX2発現がSEMA3Aにより少なくともAKT経路を介して誘導されることが示唆された。 上記結果から、SEMA3AはMM細胞には影響を与えないものの、骨髄微小環境、特に骨髄間質細胞の形質を骨芽細胞方向に変化させることで薬剤耐性を克服しうる重要な知見であり、これらの結果は近日中にまとめて論文として発表する予定である。
|