研究課題/領域番号 |
18K08374
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
田村 秀人 獨協医科大学, 医学部, 教授 (70256949)
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研究分担者 |
石橋 真理子 日本医科大学, 医学部, 助教 (20599047)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多発性骨髄腫 / KL-6 / 予後不良因子 / MUC1 |
研究実績の概要 |
多発性骨髄腫(MM)には予後不良群が未だ存在し、その病態解明と治療法の開発が急務である。我々は、新規MM患者におけるMUC1上に存在するシアル化糖鎖抗原KL-6が血清中で高い例は予後不良である可能性を見出した。MUC1はムチンの1種の膜貫通型糖タンパクで、galectin-3(Gal-3)との相互作用による腫瘍進展能、KL-6産生に影響するMUC1遺伝子多型の存在、免疫チェックポイント分子PD-L1の発現調整能を有するが、MMにおいては不明な点が多い。そこで本研究では、KL-6およびMUC1ーgalectin-3経路によるMM増悪機序を明らかにすることを目的として研究を進めている。 1)多数MM患者におけるKL-6値と患者特徴や予後との関連を解析した。新規MM患者約200例において、KL-6高値(基準値500U/mL以上)例では基準値内の症例と比べ、Hb低値、血小板数低値、血清LDH高値と有意に相関し、さらに無増悪生存期間および全生存期間が有意に短く、予後不良であることを見出した。 2)血清KL-6上昇とMM細胞上MUC1・MUC1 mRNA発現を検討したところ、血清KL-6上昇とMUC1タンパク発現とDNAコピー数とは必ずしも相関しておらず、骨髄スト ローマ細胞が産生する可溶因子、特にIL-6によるJAK-STAT経路の活性化を介して、MUC1発現が亢進、さらにKL-6産生も増強する可能性が考えられた。 現在、血清KL-6上昇とMUC1遺伝子多型や治療効果との関連、MM細胞のMUC1発現とKL-6産生の機序、MUC1とGal-3との結合によるシグナル伝達の解析、MUC1ーGal-3経路により腫瘍増殖や髄外移動能を亢進させるか、などについて解析中である。それらの知見より癌関連糖型MUC1を標的とした抗体治療薬などのMMに対する新規治療法の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに、新規MM患者約200例において、KL-6高値例が血清LDH高値と有意に相関し、さらに無増悪生存期間および全生存期間が有意に短いことを日本骨髄腫学会等で報告したが、現在、MMおよびその前段階ともいえる意義不明の単クローン性ガンマグロブロン血症(MGUS)症例を1100例以上集積し、KL-6値と患者特徴や予後との関連について解析を進めている。これまでの解析では、KL-6がMM患者の約10%で陽性であり予後不良と関連すること、さらにMGUS症例では陽性例が極めて少ないことが明らかになっている。 また、治療抵抗性で急性増悪したMM患者より樹立したKL-6産生MM細胞株における研究では、shRNAレンチウイルスシステムなどを用いたMUC1ノックダウンMM細胞株を作成し、KL-6の産生低下とともに、MM細胞の増殖低下、抗がん剤感受性の増加と関連することが明らかになりつつあり、KL-6の増殖メカニズムについての解析も進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
A) 昨年に引き続き、末梢血単核球のMUC1遺伝子多型rs4072037(PCR法)を解析し、MUC1遺伝子多型が血清KL-6値、MUC1タンパク発現、MUC1 mRNA発現、治療効果と関連があるか解析を進める。 B) ストローマ細胞から産生される液性因子によるMM細胞のMUC1発現増強、KL-6産生のメカニズムを解明を進める。 C) MUC1発現MM細胞におけるKL-6・MUC1の機能解析:引き続き、MM患者の血清中Gal-3濃度とMM患者の臨床的特徴、血清中KL-6との関連について解析を進める。さらに、MMにおけるGal-3ーMUC1経路の役割について、MUC1ノックダウンMM細胞株を用いて解析を進める。 D)昨年に引き続き、癌関連糖型MUC1を抗原に用いて抗体作成を行い、その特異性に関してMM細胞株と正常末梢血単核球を対象にFCM法を用いてMM細胞特異的抗体を選出する。抗体作成ができれば、in vitroおよびマウスMMモデルを用いたin vivoにて、その抗体効果を検証する。 E)MUC1発現と、以前より関連が示唆されているPD-L1発現亢進とに関与するmicroRNAおよび遺伝子発現に関してマイクロアレイを使用した網羅的解析より得られたデータにより、MUC1のPD-L1調整機能について解析を進める。以上の実験で得られた結果と臨床データの解析結果をまとめ、学会および血液学関連雑誌に報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞株を使用した実験では、in vitroの系がなかなか安定せず、予想された通りの結果を出すまで時間がかかり、研究の遅れが生じた。そのため、物品、マウスの購入が遅れた。今年度、研究システムの変更を行い安定した至適実験条件を見出しつつあるため、次年度は予定通りの研究が進行する予定であり、当初の使用計画通りに遂行できる。
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