研究課題
本研究では、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)に抵抗性を示し、治療後も残存する慢性骨髄性白血病(CML)幹細胞の分子遺伝学的特性の全貌を明らかにすることを目的とする。本年度は、CML幹細胞の抗腫瘍免疫回避機構について解析を行った。申請者らが見出したCD34+38-225+120a+で定義されるCML幹細胞において、免疫チェックポイント分子PDL1は、初発時18.8±14.2%に発現を認めたのに対し、TKI投与により細胞遺伝学的寛解(CyR)を得ている症例のCML幹細胞では47.6±22.5%と有意な発現上昇を認めた(n=17, p<0.01)。投与TKIによる差は認められず、PDL2の発現は初発、治療中いずれにおいても認められなかった。興味深いことにCD34+38-225+120a- CML細胞では、PDL1の発現上昇が軽度であったことから、CD120a/NF-κB経路がCML細胞におけるPDL1の発現調節に機能している可能性が示唆された。PDL1/L2以外の免疫チェックポイント分子であるCD80/CD86, B7ファミリー分子, CD112/CD155, CD226, Galectin 9, CD137 ligand, CD252 (OX40) ligandの発現に関しては、TKI治療前後での一定の傾向は認められなかった。次に、CyRを得ている患者骨髄よりPDL1+、PDL1-CML幹細胞をsotingし、同一患者由来のCD8+細胞とサイトカイン非存在下で48時間共培養した際の培養上清中に産生される液性因子を定性的に評価した。その結果PDL1+細胞との共培養では、PDL1-細胞との共培養と比較して、IFNγ, TNFα, IGFBP2の上清中の濃度が低く、IL10の濃度が高かったことから、PDL1+細胞はCD8+細胞に対して抑制性に作用していると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度は、生体内に残存するCML幹細胞の抗腫瘍免疫回避機構について解析を行った。申請者らが同定した表面マーカーを用いてCML幹細胞を分離、解析した結果、CML幹細胞は、TKI投与に対してPDL1の発現増強を介してCTLの機能を抑制し、生体内に残存している可能性を明らかにした。また、CML幹細胞におけるPDL1発現制御機構として、CD120a/NF-κB経路の役割についての新たな知見が得られる可能性が示唆されたことから、ほぼ計画通りに研究を遂行できていると考えられる。
シングルセルレベルでの全トランスクリプトーム解析に向けた基盤、体制整備を行う。TKI治療前・深い寛解達成後、TKI中止後の再発例・TFR維持例それぞれの時期における細胞を用いてSmart-SeqシングルセルRNAシーケンスを行うことで、臨床病態の違いにかかわる分子基盤を明らかにする。治療前、治療後の様々な深さの寛解達成後、TKI中止後の再発例、TFR維持例の患者骨髄からCML幹細胞を単離し、シングルセルRRBS(Reduced-Representation Bisulfite Sequencing)用ライブラリーを作成し、イルミナのHiSeq 2000 によりCML幹細胞におけるDNAメチル化のランドスケープの違いを明らかにする。
本年度分は、主に試薬の購入に充当する費用として算出していたが、予定よりも少額に収まったため、次年度に繰り越すこととした。次年度以降の遺伝子、タンパクの発現解析などに必要な試薬、細胞をFACSで単離するための抗体、実験動物等に研究費を使用する予定である。また国内、国外の学会における旅費、論文投稿料にも使用する予定である。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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