研究実績の概要 |
HLA不適合移植は急速に普及しつつあるが、不成功の最大の理由は原病の再発にある。共同研究者の小川らは、その再発機序の1つとして白血病細胞が標的となるHLAの発現を落として、ドナーT細胞の攻撃を回避していることを示した (Ogawa S, et al. Blood 2010;115:3158-61)。このような症例に対し、残ったHLAを標的とするドナーから再移植をしたり、そもそも最初から両方のHLAが異なるドナーから移植をしたとすれば、その後に再発してくる白血病細胞は両方のHLA発現を消失するのであろうか。このことは両方のHLAを標的とするHLA不適合移植後再発における白血病細胞の免疫回避機構を解明し、今後の再移植戦略に理論的基盤を提供することを目的としていた。 本研究ではそのような再発白血病細胞を具体的に同定することを計画していたが、コロナ禍により、患者リクルート及び検体搬送・解析を円滑に行うことが困難となってしまった。このため、「両方のHLAが異なるドナーからの移植」に関する臨床試験をまず進めることにした。なぜならHLA半合致移植後の再発白血病の解析では、片側ずつのHLAを標的とした2回の移植後の再発を待つ必要があるが、両HLA不適合移植後の再発であれば一挙に白血病細胞上のHLA発現を検討すれば、当初に予定していた所望の結果を検索することが可能となるからである。以下に「両方のHLAが異なるドナーからの移植」の臨床第1/II相試験の結果を概説する (Ikegame K, et al. Bone Marrow Transplantation 2021;56:70-83)。 登録症例30例において早期死亡の1例を除いて全例で生着を得た。III-IV度の急性GVHD発症率は16.7%であり、移植後1年時点での生存率は30.1%、再発率は38.9%、非再発死亡率は44.3%であった。
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