研究課題
HTLV-1は主に母乳を介して感染細胞がキャリア母から児に経口的に移行することで母子感染が成立すると考えられている。一方で完全人工栄養保育の児でも一部に母子感染が成立している事実から、母乳を介さない感染経路(胎内感染や産道感染)の可能性が指摘されてきたが、詳細な機序は不明であった。また、近年では成人においてHTLV-1の水平感染が拡大していることが疫学調査から明らかにされているが、HTLV-1水平感染経路の機序は全く検討されていない状況である。そこで、これまでにCD133陽性ヒト造血幹細胞を高度免疫不全マウスに移植しヒト化マウスを作製し、同ヒト化マウスにHTLV-1を感染させることでHTLV-1キャリアマウスモデルを確立してきたが、本マウスモデルを用いて、未知のHTLV-1感染経路の機序の解明を試みた。本年度においては胎内感染の可能性に着目し、特に胎盤を介する経路について詳細に検討した。胎盤内の血液胎盤関門を構成する細胞群(栄養膜細胞、間葉系細胞、血管内皮細胞)のHTLV-1感受性を検討したところ、他の細胞と比較して、栄養膜細胞において極めて高い感受性が確認された。この感受性は受容体分子の発現量に依存すると考えられた。さらに、HTLV-1感染栄養膜細胞はHTLV-1の転写が活性化しており、細胞表面にenvタンパク質を高発現していた。そこでHTLV-1感染栄養膜細胞をヒト化マウスの腹腔内に投与したところ、全例で個体レベルでのHTLV-1感染が成立したことから、HTLV-1感染栄養膜細胞はHTLV-1の生体内でのウイルスリザーバーや感染源として機能することが示唆された。以上よりHTLV-1感染栄養膜細胞は経胎盤感染において主要な役割を果たしている可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
HTLV-1の特に胎盤を介する感染経路について詳細に検討した結果、胎盤内の血液胎盤関門を構成する細胞群(栄養膜細胞、間葉系細胞、血管内皮細胞)においてHTLV-1の感受性を見出し、これまで機序が不明であったHTLV-1の経胎盤感染の可能性を示した。昨年度までに確立した新規in situ hybridization法を用いた生体組織内でのウイルス発現細胞の可視化手法が、HTLV-1の感染経路の解明に大いに有用であった。
HTLV-1と極めて近縁のウイルスであるサル白血病ウイルス1型 (STLV-1) はニホンザルに自然・持続感染しており、HTLV-1と同様の細胞指向性や生体内動態を示すことからモデルウイルスとしての有用性が注目されている。そこで、STLV-1感染ニホンザルから採取した生体組織をin situ hybridization法等の手法で解析し、ウイルスリザーバー等の同定を目指した基礎的検討を開始する。さらに、ヒト化マウスでは困難な、性交渉を介したHTLV-1/STLV-1の水平感染経路について詳細な検討を実施する。これらのモデル動物からHTLV-1の感染経路や生体内動態、あるいは潜伏感染メカニズムが明らかにされることにより、ヒトにおけるHTLV-1関連疾患の発症機序の解明に繋がると期待される。
次年度に成果発表のための費用が追加で必要になることが想定される。117771円をこれに当てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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