研究課題/領域番号 |
18K08379
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
森川 隆之 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 研究員 (80465012)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 |
研究実績の概要 |
まず前年度に引き続き、造血幹前駆細胞 (HSPC) の血流中から骨髄実質への血管外遊走における一酸化窒素 (NO) の役割の解析に取り組んだ。GFPマウスのHSPCを骨髄非破壊で野生型マウスと一酸化窒素合成酵素ノックアウトマウス (eNOS KOマウス) のそれぞれに移植し、16時間後FACSにより骨髄中のGFP陽性細胞の数を測定した。その結果eNOS KOマウスの骨髄中HSPCの数は野生型マウスと比較して減少傾向が見られ、HSPCの血流中から造血幹細胞ニッチへの移行が、NOによって維持されている可能性を支持するデータを得た。この骨髄におけるNO産生の制御メカニズムを検証するため、NOシグナルの上流に位置するアセチルコリンに着目した。先行研究においてマウス骨髄からアセチルコリンが検出されていることから、まず副交感神経のマーカーとして、コリンアセチル基転移酵素 (ChAT) に対する抗体を用いた免疫組織染色を試みた。その結果神経細胞のマーカーであるβIIIチュブリン陽性細胞にChATの発現は認められなかった。またChAT-GFPマウスでも骨髄の神経におけるChATの発現を示す所見は見られなかった。一方で多光子レーザー顕微鏡によるChAT-GFPマウスの頭蓋骨骨髄の生体イメージングでは、その形態的特徴から血球系と思われる細胞でGFPの発現が見られた。そこで骨髄の血球系の細胞でのChATの発現を検証するため、ChAT-GFPマウスの骨髄単核球のGFP陽性細胞をFACSにて精査した。その結果、分化細胞、未分化細胞のそれぞれの一部にGFPの発現が見られ、血球系の細胞が産生するアセチルコリンにより骨髄のNO産生が制御されている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は骨髄ニッチにおけるNO産生制御メカニズムの検証を到達目標として定めた。当初の研究計画では骨髄の血管内皮細胞に発現しているeNOSを活性化させている因子として、副交感神経由来のアセチルコリンを予想しており、Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs (DREADD) などの手法を用いて、それら副交感神経活性の人為的操作によるアセチルコリンの骨髄での役割の解明を予定していた。そのためまずマウス骨髄の抗ChAT抗体を用いた免疫組織染色や、骨髄に貫入している神経線維のChATの発現をChAT-GFPマウスの生体イメージングにより検証したところ、マウス骨髄で副交感神経の存在を示す証左は得られなかった。一方でこれら探索の過程で骨髄の血球系の細胞によるアセチルコリン産生を示す所見が得られてきたことから、副交感神経活性の操作などの実験計画を見直し、まず血球系から産生されるアセチルコリンの骨髄における役割の全体像を掴む方向への方針転換を当該年度は行っている。新たな計画案には骨髄の細胞種ごとのChATの発現やアセチルコリンの産生を示す証左を得ることなどを含めた。細胞種ごとのChATの発現はChAT-GFPマウスの骨髄単核球のGFP陽性細胞をFACSで検出することでスクリーニングを行ったが、偽陽性を除外するため複数の種類のChAT-GFPマウスを用いて検証を行った。その結果、骨髄でのアセチルコリンの産生源と思われる細胞種が同定され、NOの産生制御には骨髄局所での血球系細胞によるアセチルコリンの産生が重要な役割を果たしていることが示唆されてきている。一方で骨髄での血球系細胞由来のアセチルコリンがNO産生制御に関わる役割を検証するための、血球細胞でのアセチルコリンの質量分析器による検出や、血球系で特異的にChATを欠損したChAT-cKOマウスの解析が完了していないことから、当該年度の進捗としておおむね予定通りと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続きアセチルコリンの骨髄でのNO産生における役割を検証していく。そのためにまずChAT-GFPマウスの骨髄単核球からGFP陽性細胞を単離し、質量分析器によりアセチルコリンを検出する。またマウス骨髄の免疫組織染色および質量分析イメージングでChAT陽性細胞およびアセチルコリン産生細胞の骨髄内での分布を明らかにする。骨髄ニッチにおける血球由来アセチルコリンの役割の検証にあたり、血球細胞でChATが欠損しているChAT-cKOマウス骨髄のNO濃度を野生型マウスと比較する。さらにNOの血管拡張作用に着目し、骨髄の血管径や血流速度なども野生型マウスとの比較を試みる他、造血系に及ぼす影響を探るためHSPCの各分画の数や割合もFACSで測定する。これらのアセチルコリンに関する取り組みと並行して、加齢に伴う造血幹細胞 (HSC) ニッチの機能変化について検証を行う。加齢に伴う骨髄のNOシグナルの減弱を示したメタボローム解析による先行研究の結果からNOに着目してHSCニッチの加齢変化を探る。そのために加齢マウスにHSC移植を行い、1~4か月後のキメリズムを若齢マウスに移植した場合と比較する。加齢マウスへのHSCの生着率が若齢マウスより低かったとき、NOドナーであるニトロプルシドをマウスの飲水に添加し飼育することで生着率が回復するかを検証する。さらに骨髄のアセチルコリン濃度を安定型アセチルコリンアゴニストであるカルバミルコリン (CCh) を用いて疑似的に上昇させたときの骨髄のHSCの移植後生着率や、このときのNO濃度を解析し、NOが移植した加齢マウスの造血幹細胞の生着に及ぼす影響を精査する。
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