研究実績の概要 |
全身性エリテマトーデスにおけるSRSF1-RasGRP1-MAPK経路の解明 我々は過去に、SLE患者T細胞においてRasGRP1スプライス異常の頻度が健常人と比較して高く、これに関連して蛋白レベルが低下することを報告した(Yasuda S et al, J Immunol 2007)。続いて、SLE患者T細胞におけるRasGRP1のスプライシング異常に代表的なSR蛋白であるSRSF1の発現低下が関与し、下流のMAPK経路の活性低下、さらにはIL-2産生障害、DNA低メチル化を引き起こすことを示した (Kono M, Kurita T, Yasuda S et al. Arthritis Rheum 2018)。
関節リウマチの線維芽細胞様滑膜細胞 (FLS)における細胞内シグナル異常の是正 我々は、RA患者の線維芽細胞様滑膜細胞 (FLS) にRasGRP4が高発現し、その増殖を促進することを明らかにした (Kono and Yasuda et al, Arthritis Rheumatol 2015)。本研究において、一部の患者由来のRA-FLSではRasGRP2/4が強発現する事が明らかになった。RasGRP2はRap1を活性化することでFLSの細胞骨格を変化させ、遊走・接着を促す一方、RasGRP4はRas-MAPK経路を介して増殖を促し、両経路は協働して関節炎病態に関与する事を示した(Nakamura H, Shimamura S, Yasuda S, et al. Ann Rheum Dis 2018)。さらに、farnesyltransferase inhibitorがin vitroでFLSにおけるRasGRP4とRasの会合を阻害すること、関節炎モデルマウスにおいて関節炎抑制効果を持つことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全身性エリテマトーデスにおけるSRSF1-RasGRP1-MAPK経路の解明 RasGRP1そのものがSLEの疾患感受性遺伝子であることから、複数のRasGRP1 SNPとSLE患者の臨床像との相関について検討rs12900339-Gアレルが溶血性貧血と相関することが分かった。 関節リウマチの線維芽細胞様滑膜細胞 (FLS)における細胞内シグナル異常の是正 Rasの活性阻害薬であるtipifarnibがFLSにおいてRasGRP4とRasの会合を阻害すること、関節炎モデルマウスにおいて関節炎抑制効果を持つことを示した。FLSにおいてMAPK経路、インテグリン経路と並んで重要と考えられるのが多くの炎症を司るNF-kB経路である。我々は、NF-kB に対する抑制作用と軟骨保護作用をあわせ持つmicro-RNA (miR) であるmiR-9に着目し、FLSへの作用を検討した。結果、miR-9はFLSにおけるNF-kB1-p105の発現を抑制、更に興味深いことに、NF-kB1がRANKLのプロモータ領域に結合して転写を亢進させる作用を持つことも明らかになった。つまり、RANKLはRANKと結合してNF-kB経路を活性化させるだけでなく、NF-kBによって転写が亢進、少なくともRA患者由来FLSでは正のフィードバックループを形成して破骨細胞の分化に寄与する可能性が示された。実際に、miR-9をRA-FLSに導入することでRANKLの発現が低下し、miR-9をアテロコラーゲンと混和してII型コラーゲン誘導関節炎ラットに関節内投与することで、関節炎スコアが改善、画像的にも骨破壊が抑制された。組織学的にもRANKLの発現低下、破骨細胞の減少および骨破壊の抑制と軟骨の保護作用を認めた (Lee WS, Yasuda S, et al. Clin Immunol 2020)。
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今後の研究の推進方策 |
全身性エリテマトーデスにおけるSRSF1-RasGRP1-MAPK経路の解明 RasGRP1に限らず、SLE患者では様々なシグナル分子のスプライシング異常が亢進していることが知られている。スプライシングに関わるSRSF1以外のSR蛋白について、主にT 細胞におけるサブセット毎の発現量とシグナル分子のエクソン別の発現量を既存のものも含めたRNAseqのデータを用いて解析する。同時に、単球・好中球など骨髄球に主に発現するRasGRP4について、SLE患者と健常人由来のサンプルを用いてRNAseqを行い、主に下流のMAPK経路をターゲットに網羅的解析を行う。
関節リウマチの線維芽細胞様滑膜細胞 (FLS)における細胞内シグナル異常の是正 近年、FLSもいくつかのサブセットに分類される事が報告されている。次年度は、それぞれのFLSサブセットにおけるRasGRP2/4の発現量およびNF-kBシグナル経路についてRNAseq, western blot, flowcytometryを用いて解析し、どのサブセットでRap1-インテグリン経路・Ras-MAPK経路・NF-kB-RANKL経路が活性化しているか、またそれぞれに対するsiRNA, shRNA, miR-9による抑制効果が再現できるかについて検討する。
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