研究課題/領域番号 |
18K08382
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
久田 剛志 群馬大学, 大学院保健学研究科, 教授 (10344938)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 重症気管支喘息 / 脂質メディエーター / ω3脂肪酸 / resolvin |
研究実績の概要 |
喘息は気道の慢性炎症性疾患でありステロイド吸入薬により大きな治療の進歩をとげた。しかし、重症喘息に対する適切な治療法は未だ十分とは言えないため、喘息発症・増悪をもたらす病態の解明や新規治療法の開発を目指すことを研究の目標としている。 重症気管支喘息に対する新たな治療アプローチとなる可能性を秘めた新規抗炎症性脂質メディエーターに関する基礎的検討を実施している。すなわち、Resolvinなどのω3系脂肪酸から生成される炎症収束作用を持った抗炎症性脂質メディエーター群は、ホメオスタシス調整機能の一端を担う物質であるため、その産生低下や機能不全が炎症収束破綻をもたらし喘息発症、増悪などにもつながるという仮説が成り立つ。そのため、この病態の解明と治療への応用を発展させることを目的として今年度の実験を行った。ハウスダストマイト(HDM)誘導喘息モデルマウスにおけるResolvin E (RvE)群の炎症収束効果の解析を行った。HDM点鼻終了後にRvE群を投与し、メサコリンに対する気道抵抗測定、肺胞洗浄液中の炎症性細胞について解析し、比較した。肺胞洗浄液中のサイトカインについてもELISA法で評価した。次に、各RvE群の作用機序解明(in vitro実験)も行った。RvE3は、RvE1やRvE2と比較して、より強力にこのアレルギー性喘息モデルで効果を示した。また、RvE3のこの作用機序は、樹状細胞からのIL-23/IL-17産生を抑制することにより惹起されることが示唆された。以上の結果は、国際学会で発表することができ、すでに英文化して論文投稿も行うことができた。現在、査読者から要求された追加実験を行っている最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における平成30年度の目標であるハウスダストマイト(HDM)誘導喘息モデルマウスにおけるRvE群の炎症収束効果の解析については、おおむね予定どおり実行できている。これまでの予備実験どおりRvE3投与群がRvE1投与群と同等以上の肺胞洗浄液中の総細胞数、マクロファージ、好酸球、リンパ球数の減少効果を示すことがわかった。特に、総細胞数と好酸球数において、有意にRvE1やRvE2よりも抑制していることが示せた。In vivo実験において、HDM点鼻終了後にRvE群を投与し、メサコリンに対する気道抵抗を測定した結果、RvE3は気道過敏性亢進を抑制することも明らかとなった。以上より、RvE3はHDMにより惹起されるアレルギー性気道炎症を抑制し、気管支喘息の重要な指標の一つである気道過敏性も抑えることが示され、今後の治療戦略を考えるうえで有用な物質であることが示唆された。また、RvE3のこの作用のメカニズムを検討するためにin vitroの実験を行った。マウスから採取した骨髄由来樹状細胞(BMDC)をHDMで刺激するとIL-23産生が亢進するが、この反応をRvE3は有意に抑制することが明らかとなった。以上より、RvE3のHDMによるアレルギー性気道炎症を抑制する作用機序の一つは、樹状細胞からのIL-23/IL-17産生抑制によることが示唆された。 しかし、RvE3の受容体に関しては未だ明らかにされていないため、課題として取り組んでいる最中である。
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今後の研究の推進方策 |
HDMは喘息にとって最も重要な抗原であり、Th2リンパ球を介したアレルギー性炎症を惹起するのみならず、気道上皮細胞を傷害し、IL-33やTSLPを産生させ、2型自然リンパ球(ILC2)を介して多量のIL-5産生を起こす自然免疫系のnon-allergic eosinophilic inflammationも惹起していることが近年報告されている。その新しい機序と重症難治化との関連について注目されている。HDM点鼻終了後にRvE群を投与し、メサコリンに対する気道抵抗測定、肺胞洗浄液中の炎症性細胞について解析を進めていく。肺胞洗浄液中のサイトカインについてもELISA法で評価する。RvE群は樹状細胞のみならず、マクロファージ(MФ)に対しても重要な作用があると予想している。マウス骨髄由来単球をM-CSFで7日間刺激後、抗F4/80抗体磁気ビーズによりMФを単離し、これにHDM刺激に相当するIL-4, IL-33を添加すると、喘息において炎症促進性に働くM2 MФに分化し好酸球やTh2細胞を誘導するケモカインであるCCL17を産生する。RvE1,RvE3はこの産生を抑制することを予備実験で確認している。また、SPMsのうちLipoxin A4がILC2からのIL-13産生抑制をもたらすことが報告されている。RvE3に同様の作用があると予想しているため、今後は、各RvE群のILC2からの炎症性サイトカイン産生抑制作用についても解析する。Resolvin E群については、生体内で産生されるω3脂肪酸であるEPA(eicosapentaenoic acid)由来の脂質メディエーターであるため、炎症の側面をもつ他のアレルギー疾患に対する治療アプローチとしても応用できる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでのところ、研究はおおむね予定どおり進んでおり結果が得られているが、次年度に向けて少額の使用額が生じた。これまでの結果で、国際学会での発表や最初の1編の論文化(投稿中)もできているが、この研究をさらに発展させるためには、まだ多くの実験が必要である。今年度および来年度も研究計画に沿って実験をおこなっていく予定であり、研究費が必要である。今後は、 RvE群の受容体の同定とプロドラッグを用いた創薬への挑戦(in vitro実験)を行っていく。RvE1の受容体としては、Chemerin receptor23(ChemR23)が同定されているが、RvE2,RvE3の受容体に関しては不明である。RvEの受容体であると考えられるGタンパク質共役受容体、核内受容体をmRNAレベル、蛋白レベルで網羅解析する。また、各RvE群プロドラッグの作製とその解析を計画に沿って進めたい。RvE1,RvE2,RvE3はすべて北海道大学周東智教授から提供していただく。周東教授の研究室では各野生型RvE群よりも生体内で安定かつ強力なRvEのプロドラッグを作製済みである。各RvE群の作用機序を解析すると同時に、プロドラッグでもin vivo, in vitro実験を同様に行う。
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