研究課題
重症喘息に対する適切な治療法は未だ十分とは言えない。喘息発症・増悪をもたらす病態の解明や新規治療法の開発を目指すことを目標として研究を進めている。令和元年度はResolvin E3(RvE3)に関する基礎的検討を実施した。ハウスダストマイト(HDM)誘導喘息モデルマウスにおけるResolvin E (RvE)群の炎症収束効果の解析を行った。RvE3は、RvE1やRvE2と比較して、より強力にアレルギー性喘息モデルで抑制効果を示した。また、RvE3のこの作用機序は、樹状細胞からのIL-23/IL-17産生を抑制することにより惹起されることが示唆された。RvE3の受容体に関しては明らかにされていなかったため、検討を行った。LTB4のリガンドでもあるLTB1がRvE3の受容体としても関与していることを明らかにした。RvE3の作用に関してその受容体の一部を確認することができた。これらの成果の一端は、2019年8月にFASEB J 誌に発表することができた(FASEB J.2019 ;33 : 12750 - 12759)。2020年度は、化合物としてより安定で、強力なデオキシ誘導体を共同研究者とともに合成し、その効果を検討して論文発表することができた(J Org Chem. 2020; 85: 14190-14200)。安定で強力な誘導体を用いたin vivo実験に関しても研究を進めているところである。各誘導体の効果を確認し、創薬に向けた研究展開をしていく予定である。一連の研究で、抗炎症効果と炎症収束効果を持つ脂質メディエーターであるresolvinの喘息治療薬としての可能性を示すことができた。
3: やや遅れている
本研究における当初の目標であるハウスダストマイト(HDM)誘導喘息モデルマウスにおけるRvE群の炎症収束効果の解析については、おおむね予定どおり実行できた。RvE3投与群がRvE1投与群と同等以上の肺胞洗浄液中の総細胞数、マクロファージ、好酸球、リンパ球数の減少効果を示すことが確認できた。特に、好酸球性炎症を、RvE1やRvE2よりも有意に抑制していることが示せた。In vivo実験において、HDM点鼻終了後にRvE群を投与し、気道抵抗を測定した結果、RvE3は気道過敏性亢進を抑制することも明らかとなった。以上より、RvE3はHDMにより惹起されるアレルギー性気道炎症を抑制し、気管支喘息の重要な指標の一つである気道過敏性も抑えることが示され、今後の治療戦略を考えるうえで有用な物質であることが示唆された。また、RvE3のこの作用のメカニズムを検討するためにin vitroの実験を行った。マウスから採取した骨髄由来樹状細胞(BMDC)をHDMで刺激するとIL-23産生が亢進するが、この反応をRvE3は有意に抑制することが明らかとなった。また、RvE3の受容体に関しては明らかにされていなかったため、検討を行いLTB4のリガンドでもあるLTB1がRvE3の受容体としても関与していることを明らかにした。以上より、RvE3のHDMによるアレルギー性気道炎症を抑制する作用機序の一つは、樹状細胞からのIL-23/IL-17産生抑制によることが示唆され、今後の研究発展に向けての成果を示すことができた。また、今後の創薬に向けた研究を発展させるため、化合物としてより安定で、強力なデオキシ誘導体を共同研究者とともに合成し、その効果を検討して論文発表した。この誘導体を用いたin vivo実験を含めた研究を進めているが、COVID-19流行下で予定より遅れており期間を1年延長して取り組んでいる。
化合物としてより安定で、強力なデオキシ誘導体を共同研究者とともに合成し、その効果を検討して論文発表できた。この誘導体を用いたin vivo実験を含めた研究を進めていく。HDM点鼻終了後にRvE群を投与し、メサコリンに対する気道抵抗測定、肺胞洗浄液中の炎症性細胞について解析を進めていく。HDMは喘息にとって最も重要な抗原であり、Th2リンパ球を介したアレルギー性炎症を惹起するのみならず、気道上皮細胞を傷害し、IL-33やTSLPを産生させ、2型自然リンパ球(ILC2)を介して多量のIL-5産生を起こす自然免疫系のnon-allergic eosinophilic inflammationも惹起していることが近年報告されており、その新しい機序と重症難治化との関連について注目されている。肺局所でのサイトカインについてもELISA法で評価する。RvE群は樹状細胞のみならず、マクロファージ(MФ)に対しても重要な作用があると予想している。マウス骨髄由来単球をM-CSFで7日間刺激後、抗F4/80抗体磁気ビーズによりMФを単離し、これにHDM刺激に相当するIL-4,IL-33を添加すると、喘息において炎症促進性に働くM2 MФに分化し好酸球やTh2細胞を誘導するケモカインであるCCL17を産生する。RvE1,RvE3はこの産生を抑制することを予備実験で確認しているため、さらに研究を前進させたい。また、SPMsのうちLipoxin A4がILC2からのIL-13産生抑制をもたらすことが報告されている。RvE3に同様の作用があると予想しているため、今後は、各RvE群のILC2からの炎症性サイトカイン産生抑制作用についても解析する。
令和元年度まで、研究はおおむね予定どおり進み、結果が得られ、論文発表もできた。しかしその後、COVID-19流行下で予定より研究が遅れたため、期間を1年延長して取り組んでいる。次年度に向けて少額の使用額が生じた。この研究をさらに発展させるためには、まだ多くの実験が必要である。さらに研究計画に沿って実験をおこなっていく予定であり、研究費が必要である。今後は、 プロドラッグを用いた創薬への挑戦(in vitro実験)をさらに進めていく予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
The Journal of Organic Chemistry
巻: 85 ページ: 14190~14200
10.1021/acs.joc.0c01701
Journal of Thoracic Disease
巻: 12 ページ: 3101~3109
10.21037/jtd-20-803