研究課題/領域番号 |
18K08400
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研究機関 | 公益財団法人田附興風会 |
研究代表者 |
高橋 令子 公益財団法人田附興風会, 医学研究所 第4研究部, 研究員 (90422120)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | SOCS1 / サイトカイン / 制御性T細胞 / SLE |
研究実績の概要 |
本研究では、免疫寛容に重要な役割を担うJAK-STATサイトカインシグナル制御分子であるsuppressors of cytokine signaling (SOCS) 1の発現動態と全身性エリテマトーデス(SLE)の病態の関係を解明する。 はじめに、SLE病態において、病態が治療などにより改善すること、さらにはその改善への過程における制御(抑制)の本質を明確にすることを試みた。 SLEモデルマウスのMRL/lprマウスに対して、SLEの代表的治療薬であるステロイド(デキサメタゾン (Dexa) 4mg/mlを14日間経口)の投与を行った。投与後MRL/lprマウスのSLE病態は改善し、特にFoxp3陽性制御性T細胞(Treg)がリンパ節では減少したが、腎臓周囲では増加した。しかしながら、Dexa投与マウスのリンパ節では、CD4陽性T細胞からのIFNγなどの炎症性サイトカインの産生が上昇していた。次に、ステロイドの対照として、古くからMRL/lprマウスの病態を改善することが明らかにされている、メチル化酵素阻害薬アザシチヂン(AZA)(4から20週のマウスに週2回50μg腹腔内投与)の投与を行った。投与後MRL/lprマウスのSLE病態は同様に改善し、しかしながら、免疫学的解析にて、リンパ節でTregの数が上昇し、Foxp3の発現を失う可塑性が抑制されていた。また、CD4陽性T細胞からのIFNγなどの炎症性サイトカインの産生は低下していた。 以上のように、DexaとAZA共に、投与によりSLEの病態は改善するがその免疫学的機序は異なることが解明された。病態の改善とは「抑制」というよりはむしろ、何らかの動的平衡状態が保たれることである可能性がある。その中心的役割を担う分子の一つがSOCS1である可能性が高いと考え、今後さらに実験を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今後さらにヒト検体を用いた研究を精力的に進行させるために、施設内で加療中のSLE患者数が多く、加えてヒト臨床検体を用いた研究で実績が豊富な現所属に異動した。異動にあたり、ヒト検体の研究のための施設内の倫理委員会での審査や、実際のサンプル収集などに時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
現所属での動物実験、ヒト臨床検体を用いた実験のいずれも、各倫理委員会の審査・承認を含む研究環境が整った。上記、本質的なSLEの病態改善に対する理解も深まったので、今年はSOCS1のSLE病態への関与を解明する。 1)マウスの実験では、制御性T細胞(Treg)を含むヘルパーT細胞各サブセットでのSOCS1の発現状態、さらにはそれぞれのサブセットに誘導される過程でのSOCS1の発現動態を調べる。SOCS1トランスジェニックマウスを用いて、SOCS1の高発現状態がSLEにどのような影響を与えるかも調べる。SOCS1を安定的に高発現する因子の探索も行う。 2)ヒト検体を用いた研究では、上記マウスの実験結果を参考にしながら、SLE患者末梢血リンパ球でのSOCS1の発現量をreal time PCR法にて解析する。結果によっては、免疫担当細胞をTregなど各Tリンパ球サブセットに分別しての発現解析も施行する。SLE病態の継時的な変化や治療状態(免疫学的検査結果(DNA抗体価、補体値)、臓器病変の種類、内服薬の種類・投与量など)とSOCS1の発現の比較を施行する。加えて、病変局所である、SLE患者の皮膚、腎臓の生検組織を用いて、浸潤しているリンパ球(そのリンパ球サブセットも同定する)のSOCS1の発現を免疫染色にて解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属異動 特にヒト検体を用いた実験のための抗体(フローサイトメトリー、免疫染色など)、real time PCRの試薬などの購入に用いて、遅延分の実験を精力的に進める。
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