研究課題/領域番号 |
18K08400
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研究機関 | 公益財団法人田附興風会 |
研究代表者 |
高橋 令子 公益財団法人田附興風会, 医学研究所 第4研究部, 研究員 (90422120)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | SOCS1 / SLE / 制御性T細胞 / リンパ球減少 |
研究実績の概要 |
本研究では、JAK-STATシグナル制御分子であるsuppressors of cytokine signaling (SOCS) 1の時系列での発現変動と全身性エリテマトーデス(SLE)の病態形成の関係の解明を目的とする。 T細胞あるいは制御性T細胞(Treg)特異的SOCS1欠損マウス由来のTregは、Tregの可塑性の亢進(Foxp3発現の低下,抑制機能の低下とサイトカイン産生性細胞への変化)を示すことを筆者は解明し、Tregの安定性におけるSOCS1の重要性を示してきた。従ってさらに、SOCS1が恒常的高発現、つまりSOCS1トランスジェニックマウス(SOCS1 Tg)にてのTregの抑制能の変化、SLE病態制御に関して研究を進めた。SOCS1 Tg由来のTregは、可塑性を示さず抑制能が安定であることを解明した。しかしながら、イミキモイドクリーム塗布などの既知の方法でマウスにSLEを誘導すると、SOCS1 TgにおいてSLE病態は抑制されず、対照と比べてむしろ増悪した。 SLE誘導野生型マウス(WT)では、CD4陽性T細胞を含むリンパ球減少を認めたが、SLE誘導SOCS1 Tgにても、CD4陽性T細胞を含むこれらのリンパ球減少は改善せずにむしろ顕著になった。In vivoでのTreg移入実験を施行したところ、SLE誘導SOCS1 Tgでは、SLE誘導WTと比べて、WTまたはSOCS1 Tg由来Treg移入によるSLE病態の抑制は完全に抑制されなかった。しかし、SLE誘発SOCS1 Tgに十分な数のSOCS1 Tg由来Tregを移入することで、SLE病態を抑制することができた。 リンパ球減少はSLEの特徴的病態の一つであるが、SOCS1 TgにてSLEのリンパ球減少がさらに顕著に生じることによってTregの必要数等の変化が生じ、SLE病態がむしろ増悪することを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
やや時間を要したが、SOCS1トランスジェニックマウスの解析結果をもとに、SOCS1が欠損しても高発現でもSLE病態が増悪することを解明したので、本研究の仮説は妥当であると考えた。 SOCS1トランスジェニックマウスの解析結果に基づく、その機序も解明中である。 このマウスでの結果をもとに、免疫システムの異常に関しては引き続きマウスを用いて解明するとともに、今後ヒト検体にても「時系列」「発現変動」を重視した解析を施行する。
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今後の研究の推進方策 |
1)マウスの実験では、SOCS1は恒常的に高発現でも低発現でもSLEが増悪し、SLEでの「SOCS1の発現の継時的変化」「抑制性分子であるSOCS1の適正発現」の理解の必要度が高まった。今後も引き続き、SOCS1の時系列での変化の解析を進め、SLE病態形成でのSOCS1の役割を解明する。 2)上記マウスの結果を元に、ヒト検体を用いた研究でもSOCS1の発現動態観察も継続して解析する。SLE患者末梢血リンパ球でのSOCS1の発現量をreal time PCR法にて、治療前後、治療過程など時系列で解析する。SLE病態形成でのSOCS1の関与、役割を明らかにし、いつ、どのように、どこでSOCS1を制御することがSLEの病態制御となるかについて考察する。 3)2020年10月、SOCS1機能欠失変異家系が報告された (Hadjadj J et al. Nat Commun. 2020 Oct 21;11(1):5341. )。症状はSLEなどの早期の自己免疫疾患であった。この報告によるSOCS1の異常とSLE病態の関係を解明すべき強力な根拠を背景に、さらに研究を発展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19流行とその対応などもあり、特にヒト検体の収集と実験に遅延が生じている。ヒト検体を用いた実験のための抗体(フローサイトメトリー、免疫染色など)、real time PCRの試薬の購入を含め、精力的な解析のための費用とする。
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