本研究の目的は、JAK-STATシグナル制御因子であるsuppressors of cytokine signalling (SOCS) 1の発現の経時的変化と、全身性エリテマトーデス(SLE)の病態への関与について検討することである。我々は、T細胞または制御性Treg(Treg)特異的SOCS1欠損マウスのTregは、Treg可塑性の増加による抑制能の低下を示すことから、SOCS1がTreg安定化に関与していることを示してきた。しかし、T細胞特異的SOCS1トランスジェニック(SOCS1 Tg)マウスにSLE病態を誘導してもその病態は抑制されず、むしろ増悪することを解明した。これらの現象を解明すべく、SOCS1 Tgマウス、すなわちSOCS1過剰発現状態においてSLEの病態を悪化させる機序を解析した。 はじめに、Tregに関して解析した。in vitroの培養やin vivoの移入実験にて、SOCS1欠損Tregは容易にexTregに変化し、炎症時にFoxp3発現を失いIFNγを産生する。SOCS1 Tg由来のTregは、SLE条件下でもexTreg への変化が抑制され、Tregの抑制機能の亢進が観察された。 次に、non Treg(CD4+CD25-)に関して解析した。SOCS1 Tgマウスにて、SLE病態で認めるアポトーシスの増加、IL-17A産生の上昇、IL-2産生の低下を改善しなかった。 最後に、患者検体を解析した。SLE患者のリンパ球におけるSOCS1の発現はSLEの活動性と明確な関連はなかったが、その過剰発現はサイトカイン産生とは無関係にアポトーシスを誘導する症例もあった。 SOCS1の発現レベルは高くても低くてもSLEの増悪に寄与することが解明され、SLEの病態理解の一助ともなり得る。SOCS1の発現調整と免疫システムの制御についてさらなる解明が必要とされる。
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