研究課題/領域番号 |
18K08409
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
桑原 誠 愛媛大学, 医学系研究科, 講師 (00568214)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Bach2 |
研究実績の概要 |
抗原依存的的・非依存的な2型免疫応答はアレルギー性気道炎症を制御している。近年、肺に局在するIL-33受容体(IL-33R)陽性のTh2細胞(Tpath2)が、肺のIL-33に反応し、抗原刺激非依存的にTh2サイトカインを産生し、気道炎症の病態を慢性化させていることが明らかになってきた。しかしながら、Tpath2の分化制御機構は完全には解明されていない。そこで、Tpath2を標的とした新規アレルギー性気道炎症の治療を目指し、転写抑制因子Bach2によるTpath2分化制御機構について研究を遂行している。既に、Bach2がIL-7受容体(IL-7R)の発現を抑制していること、Bach2の発現低下に伴うIL-7Rの発現上昇がTh2細胞内の解糖系を促進させることで、Tpath2分化を誘導することを明らかにした。そこで本年度は、2型免疫応答におけるT細胞内代謝リプログラミングの役割を、解糖系を中心に検討した。T細胞特異的Pgam1(解糖系酵素の1つ)欠損マウスでは、卵白アルブミン(OVA)誘発性の気道炎症が発症しないこと、Th2細胞分化が抑制されることがわかった。現在、Pgam1欠損によるTpath2分化について解析を進めている。また、Tpath2分化・機能の制御因子である転写因子Ppargの発現がBach2により抑制され、IL-7による解糖系の促進により増強されることもわかった。Ppargは脂肪酸合成の制御因子でもあることから、Bach2による解糖系の制御による脂質代謝の調節が、Tpath2分化に関与していることが考えられた。また、阻害剤を用いた解析からヘキソサミン生合成経路によるTh2分化およびTpath2分化の制御の可能性についても見い出すことができた。以上より、T細胞内代謝リプログラミングが2型免疫応答を制御していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究により、Bach2はTh2細胞のIL-7シグナルを調節し、Tpath2分化を制御していることを明らかにしている。すなわち、Th2細胞におけるBach2の発現低下がIL-7Rの発現上昇を誘導し、IL-7シグナルを介したIL-33Rの発現増強がIL-33反応性を亢進させることで、Tpath2分化が誘導されることを示した。さらに、Th2細胞におけるIL-7シグナルの増強は解糖系の調節を介して、Tpath2分化を制御していることもわかった。そこで本年度は、2型免疫応答におけるT細胞の代謝リモデリングの役割解析を中心に研究を実施した。研究業績の概要に記載した通り、解糖系、脂質代謝経路、ヘキソサミン生合成経路が2型免疫応答を制御していることがわかってきた。また、申請者らはT細胞のグルタミン代謝調節も2型免疫応答を制御していることを明らかにしている。これらの解析から、T細胞内代謝リモデリングが2型免疫応答を制御することを示すことができた。次に、代謝リモデリングの役割は、エピゲノム状態を変化させ、Tpath2分化を誘導することにあることがわかった (in vitro解析)。代謝酵素の阻害剤を用いた解析から、解糖系はアセチル化の促進し転写活性化に、グルタミン代謝はヒストンH3の27番目のメチル化リジンを脱メチル化し転写抑制の解除に寄与し、Tpath2分化を誘導していることがわかった。これらの研究状況から、本申請研究は概ね順調に遂行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、T細胞の代謝リモデリングによるTpath2分化の解析を継続する。具体的には、T細胞特異的な代謝酵素欠損マウスを用いてTpath2分化の解析を行う。特に、解糖系については Pgam1、ヘキソサミン生合成経路についてはGfpt1(ヘキソサミン生合成経路の律速酵素)のタモキシフェン誘導型のT細胞特異的欠損マウスを使用する。加えて、PpargのT細胞特異的欠損マウスについてもTpath2分化の解析を実施し、Pparg の役割および脂質代謝の関与を明らかにする予定である。 また、本申請研究は、T細胞特的Bach2欠損マウスの肺でIL-33R陽性のメモリー型Th2細胞(Tpath2)が増加すること、肺環境中のIL-33やIL-7に反応したTpath2のTh2免疫応答により気道炎症が自然発症するという、申請者らの知見を基盤に計画、立案した。このマウスの肺の解析を進めたところ、Tpath2細胞はPD-1陽性細胞であることがわかった。また、Bach2はPD-1遺伝子座に結合し、PD-1の発現を直接制御している可能性も見出している(ChIP-Seq.解析)。このような最近の知見から、Bach2によるPD-1発現制御と、Tpath2細胞におけるPD-1の役割を明らかにしたいと考えている。加えて、肺の実質中に存在する細胞におけるPD-L1やPD-L2の発現パターンを解析することで、気道炎症慢性化におけるPD-1シグナルの役割についても解析したいと考えている。
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