Th2細胞の一部である病原性Th2細胞(Tpath2)は損傷気道上皮細胞が分泌するIL-33に反応し、抗原非依存性に2型免疫応答を遷延させることで気道炎症の病態を慢性化させる。本申請研究の目的は、Th2細胞における転写抑制因子Bach2の発現低下がIL-7シグナルの増強による代謝変化を介して、Tpath2の誘導と機能発現を促進していることを明らかにすることである。既に申請者らは、Bach2がIL-7受容体の発現を抑制していること、Th2細胞におけるIL-7シグナルの増強が解糖系を促進することを解明してきた。2021年度は解糖系に加えて、IL-7による脂質代謝経路制御の可能性について検討し、脂質代謝経路のTpath2の誘導および機能発現における役割解析を実施した。 IL-7刺激したTh2細胞では、脂質代謝制御因子Srebpの核内発現が増加し、Srebpで制御される脂肪酸合成経路およびメバロン酸経路の代謝酵素の発現が上昇した。さらに、Srebpの活性化阻害剤はTpath2の誘導、機能発現を抑制した。一方、メバロン酸経路の阻害剤は、Tpath2 の誘導、機能発現に影響を与えなかった。これらの結果から、IL-7は解糖系と脂質代謝(主に脂肪酸合成経路)を調節し、Tpath2の誘導、機能発現を制御していることが明らかになった。また、T細胞特異的Bach2欠損(Bach2 KO)マウスは肺にTpath2の増加を認め、気道炎症を自然発症する。Bach2 KOマウスの気管支肺胞洗浄液中の顆粒球浸潤は、T細胞特異的Pparγ (脂肪細胞分化および脂質代謝の制御因子)の欠損により減少したことから、肺環境における脂質代謝の調節 (特に脂肪酸合成経路) が Tpath2 の誘導と機能発現を制御している可能性が示唆された。
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