研究課題
新興・再興感染症に伴い、感染症発症のみならず、未曽有の社会的混乱が生じている。感染症への対策・制御の必要性はこれまでになく高まっている。院内感染対策に目を向けると、耐性菌による医療関連感染症およびアウトブレーク対策が重要課題に挙げられる。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、1970年代に出現した多剤耐性菌であるが、未だ克服されず、感染症発症の主要な原因菌となっている。本邦のほぼすべての病院から分離され、MRSA感染症による年間死亡者数が1万4千人、医療費が約1900億円増加していると試算されている。その発症予知と予防は、院内感染対策上、喫緊の課題である。本研究課題において、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の接着・バイオフィルム形成過程に着目し、遺伝子情報の観点から、感染症の発症リスクと臨床病態の特徴を解明することを目的に検討を進めた。MRSA臨床分離株154株の網羅的遺伝子解析を行い、疾患発症との相関を統計学的に評価した。その結果、異なる解析方法でも、接着・バイオフィルム形成にかかわるcna遺伝子領域の変異が共通して抽出された。同部位の遺伝子変異は、血流感染症、特に、カテーテル関連血流感染症と高い相関が認められた。遺伝子変異情報に基づく、変変異cnaタンパクを用いた検討では、接着した菌体成分の早期脱離に関与していることが明らかとなった。また、他バイオフィルム関連遺伝子の発現も野生株と変異株では異なっていた。これらの成果を論文とし、国際感染症学会の学会誌に発表した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた通りに、研究がすすめられ、結果を英文誌に掲載しえた。さらに、現在、バイオフィルム形成を抑制する分子Xに着目し検討を進めている。
MRSAの接着・バイオフィルム形成を抑制する可能性がある分子Xに着目し、その効果、機序を検討する。実際、マウス感染症モデルによって治療効果を検討することで、あらたな抗菌薬の可能性を評価する。また、その機序を菌体側遺伝子発現や蛋白発現解析を用いて評価を進める。これらの検討を通して、接着・バイオフィルム形成過程を標的とした、新たな治療薬の創出を目指す。
購入を予定していた試薬が、キャンペーン等で割安に購入可能であったため。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
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10.1016/j.ijid.2019.11.003.
Nephrology (Carlton)
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