研究課題/領域番号 |
18K08428
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
長野 則之 信州大学, 学術研究院保健学系, 教授 (00747371)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 下水流入水 / 愛玩動物 / blaCTX-M-27 / B2-O25b-ST131-H30R / MRSA / mcr-1 / APEC / Acinetobacter pittii |
研究実績の概要 |
ヒトと環境の間での薬剤耐性菌及び耐性遺伝子の循環、これを担う環境リザーバーの重要性の解明を主要な目的とした。 愛玩動物由来MRSA56株と、我々の既報のヒト臨床由来MRSA178株との系統ネットワーク解析から愛玩動物がCA-MRSAの遺伝系統の株の感染源や媒体となり得ること、またHA-MRSAの特定遺伝系統の株の二次的な感染源や媒体となり得ることを明らかにし、AMR対策に資する重要な基礎的知見を提示した。 環境水として流入下水由来ESBL産生E. coli50株の解析では全施設からヒト腸管外感染症に関わるB2-ST131クローンが分離されたこと、さらに国内起源の種々材料からこれまでに分離報告がないキメラ型ESBL遺伝子blaCTX-M-64及びblaCTX-M-123が検出されたことが注目された。本研究からヒト臨床上重要な流行クローンやキメラ型ESBL産生株が流入下水中に存在していることが判明し、公衆衛生上重要な問題を提起している。 流入下水からは多剤耐性菌重篤感染症の最後の砦的治療薬コリスチンに耐性を示すE. coli7株が検出され、全株がプラスミド性コリスチン耐性遺伝子mcr-1を保有していた。さらに7株中5株が家禽病原性大腸菌/新生児髄膜炎起因大腸菌関連病原遺伝子を同時に保有していた。国内の下水環境中にmcr-1保有菌の存在を確認し、市中における薬剤耐性菌の拡散リスクの観点から水系環境の監視の重要性が示唆される。 医療環境としてはNDM産生菌の検出事例のない医療機関の病棟洗浄用シンクから初めてNDM-1産生A. pittiiを検出したが、本株では医療環境への定着を可能にするバイオフィルム及び線毛形成関連遺伝子の保有も確認した。本事例は医療環境を含む環境中に既にNDM産生Acinetebater spp.が存在していることを示唆しており、国内のAMR対策の再考を促すものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は以下の4つの主要プロジェクトについて研究を遂行、完了し、成果を各々国際誌にて報告した。 愛玩動物由来MRSAの解析知見についての国際誌への論文報告が完了している。 下水流入水由来ESBL産生E. coli株並びに保有blaCTX-M遺伝子の分子遺伝学的解析、キメラESBL遺伝子保有プラスミドの全塩基配列解析が終了し、国際誌への論文報告が完了している。 下水流入水由来プラスミド性コリスチン耐性遺伝子mcr-1保有E. coli並びにmcr-1を担うプラスミドについての全ゲノム配列解析、プラスミド全塩基配列解析が終了し、国際誌への論文報告が完了している。 病院病棟環境由来NDM-1, OXA-820カルバペネマーゼ産生Acinetobacter pittii ST220産生菌の全ゲノム配列解析が終了し、国際誌への論文報告が完了している。
|
今後の研究の推進方策 |
下水流入水より検出したコリスチンand/orチゲサイクリン耐性Klebsiella spp.10株全株がプラスミド性コリスチン耐性遺伝子mcr-1を保有していないことを確認したことから、染色体性のコリスチン及びチゲサイクリン耐性機構の解析を実施し、得られた成果の国際誌への論文化の作業が進行中である。 ヒト臨床材料由来Enterococcus faecalisにおいて国内では2例目となるリネゾリド耐性遺伝子optrAの保有が確認され、WGS解析にて家畜との関連性が強く示唆されるプラスミドが同定された。本知見の国際誌への論文化の作業が進行中である。 今年度に論文報告が完了している病棟シンク由来NDM-1, OXA-820カルバペネマーゼ産生Acinetobacter pittii ST220が検出された時期より1年を経て同一病棟の入院患者からNDM-1産生A. lwoffiiが検出されたことから本株の保有プラスミドと先のA. pittiiの保有プラスミドの全塩基配列の比較解析を実施し同一性を確認している。本知見の論文化を予定しており、病院環境の薬剤耐性菌リザーバーとしての役割の重要性を医療関連感染の観点から強調する。 医療機関及び高齢者介護施設から採取する下水を対象にESBLやカルバペネマーゼ遺伝子、コリスチン耐性遺伝子などを保有する薬剤耐性菌の検出、WGSに基づく分子遺伝学的特性解析に着手している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)1. 高濃度抗菌薬選択圧下にある病院下水環境が薬剤耐性菌のリザーバーとしてのみならず、耐性遺伝子を保有するプラスミドやトランスポゾンなどの可動性遺伝因子の伝達や転移、さらには耐性遺伝子の遺伝子組み換えのhotspotとして果たす重要な役割を探求するため。2. 次年度も複数の論文を国際誌に投稿する予定であり、それらの掲載費用に充てるため。 (使用計画)1. 次年度請求額と合わせて、医療機関及び高齢者介護施設から採取する下水由来薬剤耐性菌のゲノム解析やプラスミドの全塩基配列解析を実施する。さらには塩基配列の隙間(ギャップ)を埋めるためのPCRシークエンシングによるプラスミド配列取得を行うのに使用することを計画している。2. AMR対策に資する目的で、種々環境由来薬剤耐性菌の解析知見をASMのApplied Environmental Microbiologyをはじめとする国際誌にて報告するため、それらの掲載費に使用することを計画している。
|