研究課題/領域番号 |
18K08434
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
井上 真吾 長崎大学, 熱帯医学研究所, 准教授 (00346925)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エピトープブロッキングELISA / 黄熱ウイルス / デングウイルス / フラビウイルス / モノクローナル抗体 / 大腸菌タンパク発現系 |
研究実績の概要 |
本研究では、本年度はフラビウイルス科ウイルスによる黄熱とデング熱を区別できるウイルス特異的IgG検出エピトープブロッキングELISA(競合ELISA)の開発を目指して下記のような4ステップで実験を進めた。 【ステップ1】組換えタンパクのデザイン:黄熱ウイルスのエンベロープタンパク(ドメイン1、ドメイン2およびドメイン3)を標的タンパクとするモノクロ抗体作出のため、各ドメインのタンパクを発現するプラスミドを構築し、大腸菌タンパク発現系を用いてタンパク発現を行った。 【ステップ2】組換えタンパクの発現と精製:産生されたウイルスタンパクをHISタグ標識を利用したカラム精製法にて精製しウエスタンブロット法にて標的タンパクであることを確認した。 【ステップ3】モノクローナル抗体の作出と反応性の評価:これらの精製組換えタンパクを用いて作出されたモノクローナル抗体6クローンを大量に精製し、黄熱ウイルスを含めた各種フラビウイルスとの反応性および特異性について蛍光抗体法とELISA法を用いて評価し、その特異性を確認した。 【ステップ4】診断キットの開発とキットの評価:上記の黄熱ウイルス特異的モノクローナル抗体を用いてIgG抗体の測定をエピトープブロッキングELISAにて試みた。患者血清中の黄熱ウイルス特異的抗体の抗体価の計算は、患者血清中の黄熱ウイルス特異的抗体が示す阻害効率(Inhibition Rate, %)で表した。黄熱患者の血清はいづれも50%以上の阻害効率を示したが、デング患者の血清では20%から40%にとどまった。今後は同ELISAの発色反応でも明瞭に区別がつくようコントラストを向上させるよう改良を重ねていきたい。本研究の真のテーマであるIgM抗体の検出によるエピトープブロッキングELISAの開発については次年度に着手する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、本年度はフラビウイルス科ウイルスの黄熱とデング熱を区別できるウイルス特異的IgG抗体検出エピトープブロッキングELISA(競合ELISA)並びにIgM抗体検出エピトープブロッキングELISAの開発を目指して実験を進めたが、IgG抗体検出エピトープブロッキングELISAのみに止まった。その原因としては、(1)フラビウイルス共通に言えるエンベロープタンパクの三次構造を再構築させるステップ(リフォールディング)が実施できなかったため、ELISA用アッセイ抗原として使用できなかったこと、(2)黄熱陽性患者血清が数量ともに非常に限られており、条件の検討実験に十分に使用できなかった点、(3)既存の6種類の抗黄熱ウイルスモノクローナル抗体の準備にほぼ一年間を要した。などが挙げられる。その中で、本年度の研究成果と言える点について述べると、「1」大腸菌組換えタンパク発現系およびHISタグ標識組換えタンパクの精製法の確立、SDS-PAGE、ウエスタンブロット法、銀染色等による組換えタンパクの精製度の確認や、タンパクの確認など各種試験のプロトコールの確立がなされた。「2」抗黄熱ウイルスモノクローナル抗体全6クローンの生産および精製が終了し、これらのクローンが全て、黄熱ウイルス特異的であることを確認できたためエピトープブロッキングELISAに応用できる体制が整った。「3」in house黄熱IgG検出エピトープブロッキングELISAを行ったところ黄熱患者血清においてデング熱患者血清と比較して高い阻害効率の値が計測できた。今後さらに抗原、抗体、反応条件等を検討し検出感度を向上させれば、阻害効率の差によって鑑別診断に応用できるものと思われる。そして、IgG検出エピトープブロッキングELISAで得られた知見はIgM検出エピトープブロッキングELISAの開発にも応用できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は黄熱ウイルス特異的IgG検出エピトープブロッキングELISA(競合ELISA)とデングウイルス特異的IgG検出エピトープブロッキングELISAの開発を行い、黄熱とデング熱の両疾患についてIgG抗体価から鑑別診断できる方法を確立したい。 そこで得られた知見、成果を基に、黄熱ウイルスIgM検出エピトープブロッキングELISA並びにデングウイルスIgM検出エピトープブロッキングELISAの開発を行いたい。 そのために必要な作業項目としては、(1)デングウイルス特異的モノクロ-ナル抗体の生産、精製、(2)実験動物(マウス、ウサギ)を用いた黄熱ウイルス高度免疫血清の調製、精製、(3)黄熱ウイルスエンベロープ(ドメイン3)組換えタンパクの発現、精製、リフォールディングを行い、黄熱ウイルスドメイン3特異的モノクローナル抗体の作出を目指す。(4)本ELISAのアッセイ抗原にウイルス完全粒子ではなく組換えタンパクを用い、よりコントラストの明瞭な試験法にする。(5)ケニア共和国およびコンゴ民主共和国の研究者と連携を図り、現地にて黄熱患者およびデング熱患者の検体を用いてIgG検出およびIgM検出エピトープブロッキングELISAによる両疾患の鑑別診断への応用の可能性について評価、検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は国内での新規診断法の開発およびモノクローナル抗体の生産、精製に時間を費やしてしまい試験法の評価のための海外渡航ができなかったため予算の次年度使用が生じた。次年度前半までに、黄熱およびデング熱に対するIgG検出エピトープブロッキングELISAおよびIgM検出エピトープブロッキングELISAの検査法の開発を終了し、次年度後半から次々年度前半にかけて、ケニア共和国およびコンゴ民主共和国においてこれらの試験法の評価を実施したい。
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